第2話 プリティー・ウーマンごっこ

 京都駅は花見客でごった返している。乗車券に途中下車のスタンプを押してもらう。構内のロッカーに荷物を預ける。

「いざ、プリティー・ウーマンごっこだよ。エリちゃん」

 付き添いの石矢いしやさんは笑った。

「はあ、京都駅の地下には、馬鹿に服屋が多いのですね」

 一体全体、空気が騒々しい。しかし、綺麗な男の人に手を引かれて歩くのは悪くない。しかも、石矢さんの見立てたセンスの良い、私に似合うであろうを服を次々と買い与えてくれるのである。

「なんだか、薄ピンクだらけ…」

「エリちゃん。今は、桜の季節だよ。桜に紛れるには、桜色だよ」

「そっかあ…」

 そうか? すぐさま、葉桜になるのでは…。疑惑の目を向けると、そっぽを向かれた。

「じゃあ、そろそろ駅弁買って行こうか」

 こくんと頷く。荷物を取り出して、快速のボックス席に並んで収まる。

「次は夏服買いに行こうね!」

 やたらと楽しそうである。まあ、店員もイケメンにばかり話しかけるので、そのほうが気安い。お金も出してくれるし。

 石矢さんは、ふっと息を吐く。

「ほら、うちの子は二人とも男の子だからさ」

 窓外の景色を眺めていた私は、固まった。

「え?」

 ゆっくりと、振り返る。

「いや、だから、僕の子供だよ」

美古都みことさんは、男だけど一人ですよ」

 石矢さんは、変な顔をした。

「美古都は、坂木さかき君の息子だろうに」

「ん~?」

 私は、一旦、石矢さん関連の諸々をぶん投げた。

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