第8話 揺れる国際関係

西暦2030年5月3日 アメリカ合衆国 ニューヨーク


 『向こう側』で突如として起きた戦争は、地球にある国際連合の議場をも揺るがしていた。


「しかし、あの国も随分と勝手をし始めたものだ」


 国連本部の一角にて、日本国代表はそう呟く。対する面前のアメリカ代表は、渋い表情を浮かべながら言葉を返す。


「仕方ないだろう。旧大陸の国々は余りにもベーダを甘やかしすぎた。その結果があの増長した大国だ。そして実力もあるから始末におけん」


 20数年という歳月は、平穏無事に接触を果たし、大規模な開発を受けいれた上でそれらを成長の糧にする事が出来た国が、現代国家として成熟するのに足るものであった。そもそもベーダの国土と定める範囲は、総面積230万平方キロメートルとインドネシアとマレーシアを足したぐらいの広さであり、地下資源も潤沢にある。


 それら地下資源の採掘権を売って高度なインフラと近代的な生産能力、それらを支える教育システムを買ったベーダの成長力は凄まじく、高い学力に裏付けられた能力を持つ技術者や教育者は『賢者貴族』として皇族に召し抱えられる。そうして立身出世の目標が生まれれば、国民は富国強兵の礎として自らの研鑽に励む様になる。


 軍事力も同様に、最初は自衛に必要なものを輸入していき、産業の育成具合に合わせて国産化。アルノシアやラティーニアが地球からの輸入に未だ依存している兵器すらも自国内で生産できる様になっているという現状を造り上げた西欧諸国には、恨み節しかなかった。


「旧大陸の、特にイギリスとフランスの狡猾さには呆れるしかない。ベーダ軍の殆どは英仏とイスラエルの装備を使っているからな。今回の戦争は、ウクライナの時よりも激しいものとなる上に、海戦や空戦がメインとなる。BAEとダッソーにとっては『新商品』開発のいいモデルケースだよ」


「全く…兵器で稼げる時代は遠い過去の事だと言うのに…」

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