スター、輝け(7)

 チーム『デオ・ガイステ』の対ヴァラージ戦はこれまでと違う戦局を見せていた。


 他のチームが呼称カタストロフの気を引いて追わせたのに対し、ミュッセルと協同戦線を張る彼女たちは策定ルートへと押し込む形になっていたのだ。それはテンパリングスター戦で怪物が誘導されたのに気づき、ルートを外れるのを逆利用しようとした挙動に基づくもののようだ。


「大人しく喰らいやがれ!」

 ヴァン・ブレイズの足刀にたたらを踏んで下がるカタストロフ。

「まだまだぁ」

「こんなもんじゃないんだからぁ」


 モニカとロニヤの双子が間を埋めるように畳み掛ける。ミュッセルとステファニーのコンビと双子で波状攻撃を仕掛け、攻勢に転じる隙を与えない。


(しかし、有効打も与えられていない)

 彼女はモーション終わりからホライズンの姿勢を立て直す。


 何度も渾身の斬撃を加えている。せめて腕の一本なりとも、嫌な攻撃をくり出す副腕一本でもと、踏み込んだ一撃を放っているのに届かない。


(悪くないと感じるのに、わたしでは足りないのか)


 ヴァン・ブレイズとの横並びのコンビネーションは線対称のように働いている。ミュッセルの格闘家特有の足運びを盗むことができたお陰で攻撃テンポは上がっているのにもう一歩が及ばない。


「流れはできてる。あとは閃きだぜ」

「全力のつもりなのに」

「前を捨てるな。お前のスタイルにはいいとこもあった。足捌きは組み立てのためにやるもんで、動きを根本的に作り変えるもんじゃねえ」


 繋がりを意識するあまり、攻撃の鋭さが失われているとミュッセルに指摘される。鋭さを意識するとどうしてもバックスイングが大きくなって流れが途切れる。なので抑えめにしていたがそれが間違いだという。


「こうだ」

 再びヴァン・ブレイズが前に出る。


 ショートジャブでフォースウィップを振り払うと懐に簡単に入る。腰だめにした右拳が思いきりよく発射され、ブラストハウルを放とうとしていた顔面にヒット。全力の一撃がカタストロフを仰け反らせる。

 そこまでの威力であれば、普通は右拳も振り抜かれて隙になる。ところがミュッセルは踏み込み足をひねって機体をねじり右拳を引き寄せる。さらに、反動で振りだした左が脇腹に直撃までしている。一撃は独立して威力を保ちながら、全てが一つの流れになっていた。


(足だけでなく全身で作るのか)

 ステファニーは記憶を掘り返す。


 彼とバディのグレオヌスはどうしていたか。ブレードの一閃の鋭さは彼女では真似できないレベル。そこに到達するには攻撃の一瞬に込める力は強い。比例してバックスイングも大きくなるはず。

 しかし、彼の剣闘技には切れ間はなかった。そこから手首が返り、次の一撃に繋がっている。本来ならありえない。


(どうしてた?)

 最前のミュッセルの動きも思いだす。


 打ち抜いた右拳は衝撃後に緩んでいた。拳はほどかれていたのだ。だから、不要な力の入っていない右腕は機体のひねり一つで戻ってくる。では、グレオヌスは? 


(そうか。そこでブレードグリップの握りも緩めるのか。そして、返したところでまた次の一撃に向けて力を込める。そのメリハリが重要)

 ようやく気づく。


「剣の場合は返す前に絞れよ。じゃねえと抜けてくぞ」

「なるほど」


 斬撃を繰りだすときはまずグリップエンドを引くように放つ。そうすると刃筋が整って立つ。次に絞る。これはブレーキを掛ける動作。これができないとバックスイングは際限なく大きくなる。ここまでは以前もできていたこと。

 そこから緩めて返す。このとき絞ったままだと動作が遅くなるし、腕の力だけで返すことになる。緩めて機体ごとひねれば自然と腕はついてくる。


(これだ)


 カタストロフ相手に実践してみる。流れは途切れることなく自然な曲線を描き、美しさをも感じさせた。グレオヌスの剣と同じである。そして、淀みない一閃は当然のように甲殻を刻む。


「やっぱ、お前は勘がいい」

「嬉しいものだ」

「よし。んじゃ、ついてこい」


 モニロニの双子と交代して攻撃に移る。ヤコミナの狙撃も重ねられていた怪物は姿勢を崩していた。そこへヴァン・ブレイズの強烈な後ろ蹴り。カタストロフは尻餅をつく。

 追い打ちの彼女の斬撃はリフレクタで阻まれる。表面に紫色の干渉光を刻みながら振り抜き、そこから返して脇腹へ。そのままであれば右腕を刎ねる軌道だったが、別のリフレクタで止められた。ただし、副腕は根本から斬り飛ばしている。


「攻めんぞ!」

「ああ!」


 だが、相手の抱いた危機感は予想以上のものだったらしい。強引に地を蹴ったカタストロフは反転して駆けだす。驚いた双子が慌てて道を開けるようなスピードで。


「このやろ」


 ミュッセルも追いに行くが一歩遅れる。そこへ落ちてきたのはアンチV弾頭の雨だった。


「っとぉー! 怖れをなしたカタストロフが逃げに転じたが、我らがGPFがそれを許さないー! 怪物はまだクロスファイト選手との戦いのリングに閉じ込められたままー! 皆様、ご安心ください!」


 逃げそこねたヴァラージは不満げに威嚇音を放っている。その目は周囲をうかがっていた。


(こいつは全然あきらめてなどいない)


 ステファニーは集中を途切れさせないよう腹に力を入れた。

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