スター、輝け(6)
星間管理局本部の統制室は一時に比べて冷静さを取り戻していた。当初は情報部エージェントの潜入を起因としたヴァラージの出現で、その存在価値をも問われかねない事態に浮足立っていたのである。
「
アイザック副局長が隣のブースから訊いてくる。
「呼称……、そうねえ」
「ただ『怪物』や種の名称の『ヴァラージ』と呼ぶよりは敵認識がしやすいという意識からだと思いますよ」
「だったら『カタストロフ』と命名しましょう。人には御せない災禍そのものだもの」
暗にエージェントの責任は問わないと匂わせる。
「最適ですね。ご配慮痛み入ります」
「今後、対象のヴァラージを『カタストロフ』と呼称します」
「では、一般にもそう告知いたしましょう」
アレン・アイザック副局長の判断は事態を必要以上に増大させるものではない。ヴァラージを人類の敵として意識付けする思惑によるもの。
「知性を確認した時点ではどうなるかと思いました。やはり、目前の脅威に反応する性質は変わっていませんね?」
「油断はできません。タンタルヴァラージほどの高機能型ではないようですが、なにをしてくるのか我々は知らなさすぎるのです」
作戦の流れができた現状、ユナミ局長は注視以外にできることがあまりなかった。
◇ ◇ ◇
イシュミナ・ネストレルは息子のクリオを連れてタワーマンションの地下シュルターに避難している。避難区画からは外れているものの、万一に備えた住人が集まりつつあった。
「姉ぇはあそこにいるの?」
「さっき連絡あったでしょう? あの怪物を退治する作戦に参加するから帰れないって。あんなにいっぱいアームドスキンがいるから心配ないわ」
「うん、ミュウ兄ちゃんもいるもんね」
夫のセッタムは本部から動けまい。クリオにはやんわりと伝えたが、娘のエナミにいたっては作戦指揮を執るために現場に出ているという。
母親として案じる気持ちはあるものの、息子を守るという自分にできることをするしかない。夫からは本部に避難するよう進言されたが特別扱いは辞した。自身、一般人という認識なのだ。
『本局からの発表です。当該事案の元凶であるヴァラージを『カタストロフ』と命名しました。今後もカタストロフの動向にはご注意ください。必要に応じて避難区域の変更は行いますが、近隣区域では自主避難を推奨いたします』
シェルター内には現場を映しだす大型投影パネルがある。そこでは空色のカラーリングをした編隊と真紅のアームドスキンがカタストロフと戦っていた。
「頑張れ! ミュウ兄ちゃんなら絶対にカタストロフを倒せるから!」
「ええ、応援しましょうね、クリオ」
イシュミナは家族と同じように責任感に身を浸していた。
◇ ◇ ◇
「ただいま本局から発表があったとおり、あの怪物のコードネームは『カタストロフ』となりました。今後はわたくしもこの名称を使用します」
フレディも広範に伝える。
「現在はカタストロフに『デオ・ガイステ』とヴァン・ブレイズの混成チームで対処中。皆様、ご声援をお願いいたします!」
ステファニー・ルニエにはアナウンスのバックに数多くの応援の声が被ったように聞こえた。彼らを鼓舞するのに各地からの声をミックスしてあるのだろう。
「聞こえたかよ?」
ミュッセルが言ってくる。
「ああ」
「怖いか?」
「怖くないと言ったら嘘になる」
カタストロフは武装が強化されている。命懸けで与えた傷は早々に癒え、副腕まで生やしてきた始末だ。
「最強がいるべき場所はこいつの前だ。お前も上を目指すなら逃げるんじゃねえぞ」
「逃げはしない。わたしが始末できるならこのうえないと思ってる」
「頼もしいじゃねえか。んじゃ、行くぜ?」
ヴァン・ブレイズは小刻みにステップを踏みながら接近していく。ステファニーにもその動作の意味がわかっている。的を絞らせず次の攻撃に繋げるもの。彼女も似たステップを刻みながら進みでた。
「少し控えて。副腕の動作の解析進めるから」
エナミが忠告してくる。
「怖気づいてられっかよ。鳴かせてやんねえと解析も進まねえだろ?」
「そうだけど、発射口の開放を確認しやすいから軌道予測も出しやすそうなの」
「できたら反映してやれ。それまでは勘で十分だ」
「もう!」
ミュッセルと付き合うのは身が縮む思いと背中合わせだろう。普通の女性では、安定を求める性質から合わないと思われる。エナミの肝の座り具合は慣れから来たものか。
「さあ、来やがれ!」
「シャギャアー!」
舞うフォースウィップを弾き飛ばして間合いを詰め回し蹴りを放つヴァン・ブレイズ。仰け反りながらもブラストハウルで突き放しに掛かるカタストロフ。時折り破裂音が混じるのは、衝撃波と
「クリオの応援も聞こえた。ここいらでいいとこ見せねえとな」
「え、弟の? そんなの聞こえた?」
エナミとの交信には余裕さえうかがえる。
(ミュウの強さは背負うものの大きさからか。英雄の器とはこういうものだな。わたしもそこへ行かねばならない)
ステファニーは睨む黄玉に怯まずブレードを走らせた。
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