スター、輝け(1)

(さて、メリル・トキシモ嬢。四天王の中では最もニュートラルといえる我がチームをどう動かしてくるかな?)

 レングレン・ソクラは怖さというより興味が先に立っていた。


 エレイン・クシュナギが率いていたチーム『オッチーノ・アバラン』とは何度も対戦していた。そして、一時期から妙に手強くなったと感じたのも事実。おそらく、このコマンダーが加入したタイミングだと思われる。


(狂犬は制御が効かないにしても、他の選手たちに粘りが出ていたのが原因。それが彼女の技量だ)

 分析に間違いはない。

(今の『ギャザリングフォース』も超攻撃型布陣。ガンナーをうまく動かせるだけの指揮能力があるかどうかで、うちが機能するかどうかが決まる)


 テンパリングスターは彼とフェチネが剣士フェンサーであとは三人は砲撃手ガンナーである。ショートレンジシューターはいない。かなり走れるようになったとしても純粋な前衛型ガンナーとは言いがたいメンバーなのだ。


「よろしく、レン」

「よろしく頼むよ、メリル君」

「悪いけど、少し振りまわすわ」


 言われて少し驚いた。彼女はツインブレイカーズ戦を見て、もしかしたらゼドたちをショートレンジシューターとして使えると思っているのかもしれない。だとすれば誤算である。場合によっては彼が先導して独自に動かないといけないかと思う。


(やりたくはない。が、仕方ない場合もある)

 心構えをする。


 テンパリングスターはレングレンの派手なパフォーマンスが主軸のスターチームだと思われがちだ。しかし、実際は違う。ゼドがメインの砲撃手ガンナー組が配置に成功し、機能的に動けるか如何で戦局が変わる。対四天王戦だと勝敗に直接影響する。


(今回は全体の流れのある作戦。うちだけ慣れたコマンダーを使えとはいえない。無理を言って外されるのも業腹だしね)


 要請に対して迷った点だった。コマンダー本人は「かまわない」と言ったのだが、成功するかどうかは五分五分と思う。命懸けの作戦だから安全策を執りたいが、彼らの指揮者は常にレングレンに名誉を譲ってくれる心優しい男である。実戦向きではない気もした。


(敗北を最も背負うのがコマンダーだと思っているからな。プレッシャーは人一倍だろう)

 応援すると見送ってくれた彼にチームを誇ってほしいと思う。


 エナミ・ネストレルに指示されたとおり、怪物の左側面から挑む。早速レングレンとフェチネに接近するようナビスフィアで命じられる。


「無理するなよ、レン。あれを喰らうと命に関わるんだからな?」

 後ろから声が掛かる。

「わかってるさ、ゼド。チームから絶対に戦死者は出さない。私が身を張ってでも防ぐ」

「それが無理だって言ってる」

「良い心懸けね、レングレン・ソクラ。そのつもりでいきなさい」


(なんだって?)

 さすがに顔をしかめる。


 心無い台詞だと思ったが現実は異なる。砲撃手ガンナー三機に大きく迂回するようなコースが命じられる。包囲陣を張る配置に思えた。メリルの意図が読めない。


「距離200、高低差なし、風速は北東より7mです」

 エナミが淡々とガンナーにナビしている。

「ありがとよ、嬢ちゃん。ワイズ、土埃そっちに流れるぞ。上手に振る舞え」

「っと、そうか。風があるのか。マっズい、忘れてた」

「この配置だとフォローできませんからね? 頼みますよ、ワイズ」


 ナビは戦況パネルに落とされたポイントの状態を示している。そこへ向けて配置するのだと示された。


(ガンナーをガンナーとして使うつもりか。ひとまず安心と思えるが……)

 牽制用の移動砲台くらいに考えている可能性も否めない。

(でも、エナちゃんがこうも冷静なのがおかしい。この子はそんなタイプじゃないはず。メリル嬢の思惑が見えているから落ち着いていると思う)


 だとすれば、先ほどの台詞の意図はなにか。ただの脅しに意味はない。なんらかの符号だとは思うのだが、実際の指揮に触れてみないとわからない。


「レン、そっち向いてる」

 フェチネの声は緊張気味。

「釣れてくれるなら申し分ないね。上手に踊ってみせるさ」

「言ってな」

「ブラストハウルの動作解析出ました。軌道表示と簡易な自動回避を送ります。ただし、100%ではありませんので、そのおつもりで」

 エナミが被せてくる。

「ありがたい。あれの対策だけはどうしようかと思ってたところ」

「お礼ならマシュリさんとゾニカル・カスタムに。あの光学チャフのお陰で解析が一気に進みましたので」

「愛してるって伝えておいてくれ」

「御免です」

 メイド服の美女の冷淡な声に追い打ちされる。


 条件が整ってきた。より大胆に動けるようになる。彼の心情と連動するようにアタックサインがナビスフィアに表れる。


(案外、人使い荒いのかもね。でも、あの綺麗どころに顎で使われるのも悪くない)

 不謹慎に考える。それくらいでないとやっていられない。


「はて、私の闘争心はどのくらい残っているのかな?」


 彼とて出身は近隣惑星国家の国軍パイロット。国内テロ対応とはいえ、実戦経験くらいはある。そのときのチリチリするような感覚が蘇ってくる。


 レングレンは腹に力を入れ、モニタ内で大きくなってきた怪物を見つめた。

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