スター、輝け(2)
赤褐色の甲殻がモニタを埋めてくると、さすがのレングレンもプレッシャーを感じる。死の恐怖にピリピリする背中も懐かしさを覚えるほど。
(ミュウ君に嘗められるはずだよね。命の危険のない勝負に慣れすぎてる)
少年と対峙していると少しずつ蘇ってくる感触があった。死にはしないと思っても
(あれがなかったら怖ろしくて要請を断っていたかもな。ここんとこ、彼との対戦が多かったから度胸がついた)
焦げるような緊張感にも精神が慣れてくるもの。現在の精神的スタミナは赤毛の美少女みたいなライバル少年に育まれたものといえなくもない。
「だったら、ここは!」
右上から落ちてくる力場の金線に噛みつくように躱す。反対に避けていれば余分な動きが必要で繋がらない。逆に右に飛び込むような回避が次の攻撃への足掛かりになる。
「っとぉ」
地面をえぐったフォースウィップが追うように跳ねてくる。姿勢の崩れていなかったレングレンは即座にブレードで弾き返すことができた。
「いいぞ、レン。抜けろ」
「了解だ」
隙間を縫ってバルカンビームが怪物に突き刺さる。彼がフォースウィップを弾いていたので防御に用いられなかった所為だ。甲殻が破片を撒き散らしたところでリフレクタが生まれて防がれる。
(防御が硬いのは事実だが近距離に偏ってるか? 致命的な攻撃は入りにくいがバルカンは当たってるね)
今のも三方向からガンナーの攻撃を受けていたので過負荷気味で防御が遅れた形。優勢に進められていると感じる。
(ゼドたちの使い方もこの状況を作りだすために他ならないときた)
レングレンは愉快そうな笑みを抑えきれない。
ゼド始めワイズとシュバルはバルカンビームによる攻撃をしている。一ヶ所に足を止めてではない。等間隔を保ちつつ円弧を描いている。それも一定速度でなく、それぞれがバラバラに速度を変えつつである。
(これなら怪物も意識を向けつづけないといけない。リフレクタの位置を変えるのにリソースを割かざるを得ないわけだ)
当然、ヴァラージにしてみれば思わしくない戦況。打破すべくガンナーへの生体ビーム攻撃を試みる。ところが割り込むように彼ら
「スクランブルレディの出撃だぁー! 怪物のビームは彼女を捉えきれないー!」
フレディのよく通る声がフェチネの行動を如実に表している。
生体ビームを発射するレンズ器官はヴァラージの駆体に備えられている。つまり、発射方向へ身体を向けつづけないと狙いを定めることができない。同時にフォースウィップを振ろうとすれば照準は外れる。
(だから、突き放そうとすれば生体ビームの照準を変えるしかない、か)
それがメリルが執るテンパリングスターに向けた戦術だった。彼女はチームの構成の特質を十全に理解し、最も効率的かつ有効な用兵で動かしている。
「今度は『シャットフラッシュ』レングレンが来るぅー! 飛び込みが深いぞぉー! これは一撃入るかぁー!?」
生体ビーム発射直前で怪物の正面から機体を逃がす。空振りをさせてから踏み込むと次はフォースウィップが襲い掛かる。リフレクタで受け止め、腰の位置でかまえていたブレードで斜めに斬りあげた。
「惜しいー! 気迫の一閃はかすめたのみぃー! しかし、動揺は隠せないぞぉー!」
ヴァラージはやむなく身を引いている。そのため、続けて放った彼の連撃は駆体に届かない。だが、それでいいのだ。
レングレンがレトレウスを深めに切り込ませるのは、その方向へ移動させたいとき。方向が違っているときは射線を自身に向けさせるだけの目的なので軽く牽制するのみにしている。
(これは試合じゃないから斬撃はそんなに効かない。ボディに触れさせるだけでノックダウンは奪えないからね。ほんとは突きたいとこなんだけどさ。与えられるダメージが比較にならない)
斬撃にしているのはヴァラージをルートに乗せて動かしたいから。当初の目的を忘れてはならない。それでなくとも居住ブロックがだんだんと近づいてきて、無闇な方向へ生体ビームを撃たせられなくなってきている。
「これは絶妙ー! テンパリングスターならではの巧みな戦術が敵を縛り付けているぅー! このまま弱らせて退治できるかと期待させてくれます!」
リングアナの煽りに乗ってはいけない。
フレディの意図的な誘導である。クロスファイトドームへ怪物を放り込むという作戦意図を市民にも悟らせないためのもの。最初から居住ブロックを横断すると知られてしまうとパニックを誘発させかねない。
(まあ、ギャザリングフォースとフラワーダンスが居住ブロックに配置されている時点で
居住ブロック防衛目的と思ってくれているうちに目的を達する。派手に動いて市民の目を引いておかねばならない。
(それもメリル嬢に任せておけばいいから楽だよね。ナビスフィアに従っていればいい)
チームの最適運用をしてみせるコマンダーにレングレンは舌を巻いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます