怪物とクロスファイト(8)

「生体ビームが復活するまでにダメージを重ねられれば活性を削って追い込めるんじゃないかと思うんですけど」

「やってみせるわよ」


 エナミは当初の作戦を手順どおり進められればいいと考えているのだろう。しかし、メリルはチャンスがあれば撃滅まで持っていきたい。チームごとに攻撃を積み重ね、まずはヴァラージの体力を消耗させてからと考えていたが勝機とも思える。


(これほどいい局面はそうそう作らせてくれない。狙いどころ)


 生体ビームを失い、攻撃も見切りやすい状態は千載一遇。ここで畳み掛けねばいつやるという。


「動いて動いて。ここしかない」


 アイコンを操作して前衛トップ三機による包囲態勢を取らせる。後衛バックには光学チャフの密度維持と可能なかぎりの狙撃指示。


「繊細に。でも、大胆に」

 自分に言い聞かせる。


 セーウェンのジーゴソアを正面へ。リフレクタで防御を固めさせながら攻撃は任意。注意を引かせてシラオファとビストミアを背後にまわす。


「可能ならスラストスパイラル発生器を潰してください。そうすると防御を弱められます」

 エナミが補足の指示をしている。


 死角からシラオファにアタックサインを出して一撃だけで逃がす。ヴァラージの視界の中へと動かした。

 そちらにも注意を向けたところでビストミアにアタックさせる。ショートレンジシューターの彼女を飛び込ませて背中を狙った。目いっぱいのバルカンビームを浴びせる。


「直接狙っても弾かれるので根元周辺を。そこが力場を生みだす器官になっていると思います」


 しかし、甲殻を粉砕するに留まる。すぐに小型のリフレクタが発生して防御され、螺旋スラスト力場スパイラルに叩かれそうになって退避した。


「硬いですね」

「通常兵器が効かないわけじゃないんだけど防御がね」

 最大の難点かもしれない。


 優勢は確保できている。シラオファは巧みで、セーウェン機と連携して攻撃させた隙間を狙っている。彼のアタックも任意に設定し、ビストミアを使うことにした。視界から消すように動いて盲点を突く。


「ゾニカル・カスタムの攻勢は止まらないー! これは怪物もお手上げかぁー!」

 フレディが期待を高める。


(もう一押しが足りない。ミュウを使う? でも、ここに異物を入れるのは危うい気もする)

 バランスを崩してしまいそうだ。


 勝負どころなだけに判断が難しい。詰み手を打つには相手が弱りきっていないと感じる。隙を見せると盤面をひっくり返されそうで、地味な攻撃のほうが有効かと思えた。しかし、臆病が裏目に出る。


「あん?」

 真っ先に気づいたのはミュッセルだった。


 ヴァラージの手元がぼんやりと光っているように見えたかと思うとセーウェン機に向けて踏み込んできた。フォースウィップの軌道を確認できなかった彼は好機とばかりにブレードを跳ねさせる。ところが、一閃は胸元で止まっていた。


「懐に入んな!」

 警告が飛ぶ。


 ヴァラージの爪が力場を帯びて輝いている。左手の爪がブレードを受け止めていた。そして、右手の爪がひるがえる。

 重いだけに加速に劣る重装甲カスタム機は回避がワンテンポ遅れた。振りおろされた力場爪フォースクローがジーゴソアのブレストプレートを引き裂き剥ぎ取った。


「せーウェン選手、一時退避! 損害確認!」

「あんなものまで……」

「難しい武装じゃありませんけど、ミュウやグレイ並みの白兵戦闘は期待できません。距離取ります」


 エナミの素早い判断は間違っていなかっただろう。ヴァラージが上回っていただけである。次の警告もミュッセルからだった。


「躱せぇー!」


 その声に反応して前衛トップ陣が飛び退く。黄色い霧の中を白光が走った。間に合わなかったのはセーウェンだけだが、彼のジーゴソアは右足を削がれており、飛行して退避するしかない。


「直撃させろ!」

「ああ」


 ミュッセルに促されてレギ・ソウルがビームを放つ。どうにか後退支援になって追い打ちは免れた。


「もうビームレンズが復活したの?」

「違え。隠してやがった。肩だ」

「こっちでも確認」


 ヴァラージの肩に新たなレンズ器官が浮きだしている。霧の視界不良を逆手に取られて変化を覚るのが遅れてしまった。


(追い詰めたのに)

 メリルの奥歯が鳴く

(戦力減。戦線維持も難しいレベル。牽制しかできない)


 シラオファにセーウェンの代わりをさせることはできない。周囲を巡らせてアタックさせるも効果薄だ。逆に狙われる。


「こんのー!」


 ヤケクソとばかりにビストミアが背中にバルカンを掃射するも甲殻を削るのがせいぜい。振り返りざまに放たれた生体ビームに頭部の上半分を吹き飛ばされる。限界を感じて二機に撤退サインを出した。


「無念」

「もう一息って感じだったのに」


(違う。ヴァラージには考える余裕があった。押し切れなかったのは力不足)

 白兵戦能力が足りなかった。


 後衛バック二機の位置を操作して怪物を引き寄せさせる。そこでお役御免だ。


「お待たせでした。レングレンさん、お願いします」

「いいよ、エナちゃん。私のことはレンと呼び捨てにしてくれて」

「わかりました。左側面から入ってください」


 登場したアームドスキンは先頭二機がクリーム色、後ろ三機が紺色に近い青色をしている。全てが新型の『レトレウス』だ。


「次なるは期待の星ー! 我らが『テンパリングスター』の登場だぁー! 強化されたスターチームが怪物に立ちふさがるぅー!」

 フレディが下がった意気を盛り上げに掛かる。


 メリルは大きく息を吐いて気持ちを切り替えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る