怪物とクロスファイト(7)
チーム『ゾニカル・カスタム』はバラエティに富んだ外観のアームドスキンを進めてくる。しかし、ベース機体は全て『ジーゴソア』。カスタマイズで特色を出している。
(急な要請だったから特殊兵装のままなのかしら?)
武装は炎星杯のときと変わらない。
(それとも、なにか目算が? 意図的なものなら利用しない手はない)
メリルはスペックデータに目を移す。中央のセーウェン・チャルコッタ選手がパワータイプの重装甲カスタム。両サイドのシラオファ・バークモン選手とビストミア・バラン選手が高速機動戦仕様のエアロカスタム。残りのパシャ・マーミル選手とスニル・クーデシカ選手の
(ピックアップサイン?)
特出する機能を示して点滅する武装がある。
(へぇ、それで電子戦仕様。使えってことね)
「電子戦カスタムとかなにを思って出してきたんだろう? ヴァラージに使える物なんてあるかい?」
グレオヌスは軍歴があるだけに理解が及ばない様子。
「意図的にはわかるわ。ただし、性能のほうが今ひとつ。おそらく使うならすぐだから見極めましょう」
「そうですか。なにかあったかな?」
「レーザーで目潰しとかじゃね?」
冗談交じりでミュッセルが言う。しかし、当たらずとも遠からずというところだと感じた。彼女の予想どおりなら目的は異なるが。
「接敵します」
エナミが注意喚起する。
「ああ、物理弾? こいつらだけアンチV持たされてんのか?」
「違うの。もう起爆すると思う」
「ん、光学チャフ? そんなものが役に立つとか……」
電子戦カスタムの4、5番機が発射した弾頭は放物線を描いて怪物の進路へ。上空で起爆すると黄色い粉を撒き散らした。
グレオヌスが言ったとおり光学チャフと呼ばれるもの。宇宙空間では光学ロックオンを妨害したりするのに用いる。煙幕のような脱出手段だった。
「見えなくなんのは不利になるだけなのによ」
ミュッセルは苦言を呈する。
「見えなくなった分、見えるようになるものがあるのよ」
「見えなくなったから見える?」
「そう。ほら、接近戦仕掛けていくから」
連続で発射された光学チャフ弾は交戦エリアに広く散布される。ただし、重力に引かれるゆえに薄まる速度も早い。
黄色い霧の向こうにヴァラージの影がうごめく。フォースウィップが煙幕の向こうでひるがえるが、機体を大きく振って回避機動をしていたゾニカル・カスタムの
「馬鹿! あんまり不用意に突っ込むとよ」
「待って、ミュウ」
ミュッセルは危険を感じて割って入ろうとするもエナミが止めた。
「大丈夫だと思う。見てて」
「まさか……、そうか!」
「おそらくね」
グレオヌスのほうが先に気づいた。
赤毛の美少年が懸念したのはブラストハウルである。ヴァラージは接近してきた機体への有効な攻撃手段として不可視の衝撃波を用いる傾向があったからだ。
しかし、
「これか!」
「そう、ブラストハウル対策」
黄色い霧が高速で押しだされる光景が展開する。もちろん、それが発射されたブラストハウルである。衝撃波が押しのけ、運びながら迫ってくる様子が手に取るようにわかった。
「ちっ、味なことしやがる」
「弾速が遅いだけ有効だな」
「俺は見えてっからわかんなかったぜ」
ブラストハウルに苦労させられるグレオヌスが勘づくのが早い。
ビームより遅い衝撃波であるがゆえに避けるのは容易だ。
ヴァラージは堪らずフォースウィップをひるがえして迎撃するも、黄色い霧の中ではそれも拡張して見えた。軌道が丸見えである。
「光学チャフは粉末じゃなくて反応剤の霧。それも重力下でちょうどよく拡散するよう比重を調整してあるわね」
メリルは効果のほどを実感する。
「反射性能も上げてあるみたいですよ。ゾニカルの新製品なのかもしれません」
「こんな危急の際に実験投入してくる?」
「ただでは転ばないぞって意思表示なのかも」
エナミは豪胆な意見を言う。確かにそうなのかもと思わされた。重力下用に調整されているのはクロスファイトでの使用も視野に入れていたのかもしれない。
「ブラストハウルの弾道は見える。フォースウィップの軌道は読みやすい。これはもしかしたらもしかするかも?」
期待大である。
「回避はいいとして、あとは防御を崩せるか否かですね」
「曲がりなりにも四天王の攻撃力」
「いけるかもしれません」
残るは彼女の用兵次第ともいえる。光学チャフの所為で悪い視界を克服すれば光明が見える気がした。そこで索敵ドローンからの映像が急にやや明瞭になる。
「補正プログラムを噛ませました。タイムラグが気になるのでこれが限界です」
意外にも協力的なエンジニアに驚く。
「十分よ」
「こっちにも寄越してくれ。見えにくくて戦況がわかんねえよ」
「うん、すぐ反映してもらう」
エナミがマシュリと協力してミュッセルたちとゾニカル・カスタムの
(さあ、腕の見せどころ)
メリルは意気込んで指を踊らせた。
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