怪物とクロスファイト(6)
メリル・トキシモは憮然とする。反復攻撃を完璧に読まれた。戦術パネルの中心にいるヴァラージにはこれまでに見られないほどの知性が感じられる。
(
悔しさが胸に満ちる。
大破したチマ機は戦線復帰できないだろう。シーヴァ機もまともな精神状態ではない。投入するのは危険に過ぎる。
「ヴァン・ブレイズとレギ・ソウル、戻ります。待機中のチームも投入します?」
エナミが尋ねてくる。
「連携が取れるとは限らないわ」
「せっかくの四天王を暫時投入は悪手だって声もありますよ?」
「無し。数だけ増やしたって収拾つかなくなって落ちるのが出てくるだけ。チームごとの運用が正解」
「私もそう思います」
無駄に不安がらせないよう、タレス市民の反応を見るために開いているメッセージタスクには批判的な意見も上がっている。しかし、チーム運用に関して改める気はない。連携も怪しい状態で戦力だけ増やしても意味を感じられない。
「このまんまじゃ怪しいぜ。俺たちでどうにか生体ビームだけでも潰すから隙間空けさせてくれ」
ミュッセルが訴えてくる。
「可能?」
「やってみるっきゃねえ」
「わかった」
判断に迷うが、彼の言っていることには一理ある。クロスファイトのパイロットはヴァラージの多彩な攻撃に実感が伴っていない。現状では戦死者を出しかねない。
「エナ、わたしの用兵が読めて?」
隣に問う。
「ある程度は。真似しろって言われても困りますけど」
「いいわ。ポイントが見えたら二人を飛び込ませなさい」
「承り」
ミュッセルたちの使い方はエナミのほうが上手だろう。メリルは彼らが働ける場所を作るほうに専念する。
(反復攻撃のタイミングを看破するだけじゃなく、こっちの盲点まで利用してきたわね。本能のレベルを超えてる。生体ビーム潰すとか簡単に言うけど、この子たち、なにする気なのかしら?)
二人のすることは読めない。
ナクラマー1がガンナーの牽制抜きで攻撃を続けるのはもう数度が限度だろう。その間に機を作るのに思考を費やす。チェインとフェレッツェンの連撃からデモリナスのパワーアタックに繋げる流れを組み立てて防御で手一杯にさせる。
「そのまま。三つめ、行きます」
エナミが告げる。
「そうして。たぶんもう狙われる」
「後ろです」
チェインが直線的な突進で気を引いて生体ビームを使わせる。際どく回避したところで入れ替わりにフェレッツェンにフォースウィップを縫うような攻撃を挟まさせた。
手間取るヴァラージの隙にもう一度チェインに斬撃を入れさせ、作った隙間にデモリナスを踏み込ませた。パターンは変えてあるのに不安は的中する。待ち構えたように口を開いてブラストハウルを放つ体勢。
「避け」
エナミの合図に、攻撃させないままデモリナスをスライドさせる。
「いいか? 無心できっちり狙ってこい。間違っても外すんじゃねえぞ?」
「言う通りにするさ」
「来い。二発だ」
スライドして衝撃波の塊を回避した隙間へ、斜めにヴァン・ブレイズが切れ込んでくる。真後ろにはレギ・ソウルがピッタリと付けていた。
(どういうこと?)
メリルには今の会話の意味が掴めない。
フォースウィップのうねりの頂点をブレードナックルで叩くミュッセル。苦もなく懐に入り込むと左の拳打を放った。しかし、あまり踏み込んだ一撃には見えない。
(ジャブ? 牽制を入れただけで次が本命?)
それにしては機体が立ちすぎている。
これまでのように低い姿勢ではないと見たヴァラージが攻撃に移ろうとしている。ところが、その真紅の背中にはレギ・ソウルのブレードが突き入れられようとしていた。
(ブラインド。それにしても狙いが甘い。そんなんでダメージ入れられる? ましてや生体ビームを潰すとか)
ミュッセルは左にスライドし、当然のように残像を貫くグレオヌスの一撃。ブラインドは成功しているが攻撃としては間合いが遠く浅い。さしたるダメージを望めそうにない。
その一閃に紫電が散る。リフレクタで防がれたのではない。なんと、ヴァン・ブレイズがブレードスキンで横から小突いていた。その切っ先は狙い違わず、生体ビームの発射器官である左胸のレンズを貫く。
「当たった!」
思わず驚く。
「もう一発だ!」
「やってる!」
今度は左後ろにズレたレギ・ソウルの突撃。ミュッセルは機体を右に傾斜させつつ下から拳甲でブレードを撫でる。すると、切っ先の進路は僅かにずれ、補正されて右胸のレンズ器官へと吸い込まれていった。
「やった?」
粉微塵に砕けるレンズ器官。
「どう思う、メリル? あれも再生すっか?」
「……すると思う。でも、繊細な器官だけに時間は掛かるはず。でかしたわ」
「ナクラマー1は戦闘パターン読まれたみたいのなので下げます」
エナミが素早く判断した。
散開していく三機のルーメットとミュッセルたち。しかし、ヴァラージは追撃する攻撃手段が奪われていた。
「お疲れさん」
「あとは任せるねー」
声は軽いが疲労の跡は濃い。命懸けの攻撃に精神をすり減らしていたであろう。ブレードグリップを振る三機とは逆に進撃してくる一団がある。
「善戦した『ナクラマー1』を称えましょう!」
フレディは労りを捧げる。
「次なる刺客は彼らぁー! チーム『ゾニカル・カスタム』!」
アームドスキン『ジーゴソア』の登場にメリルは気持ちを切り替えた。
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