怪物とクロスファイト(5)

「ヤバ」

 先頭にいるチェイン・ガーリラの声だ

「こっわ!」


 ヴァン・ブレイズとレギ・ソウルを追うヴァラージは疾走している。被害を最小限に抑えるため工業ブロックの地上、各アームドスキンメーカーの訓練場が連なるエリアをルートに設定しているので建造物が少ないだけに迫力がある。


(まずは引き継げってか?)

 ミュッセルはナビスフィアの表示を目の端に捉えながら走る。


 メリル・トキシモの指示は離脱。ナクラマー1の牽制に合わせて進行ルート上から外れるよう促してきた。グレオヌスと目配せして左右に分かれる。


「ヤバいけど逃げられなーい。応援してくれるファンの娘たちを守るのさー!」

 余計な台詞が多いが腕は確かな男である。


 受け止めるかに見えて、ブレードで力場フォースウィップを絡めて逸らしながらすり抜ける。瞬時に背後を取っていた。


「おーっと、チェイン選手、巧みなアクションで有利なポジションへー! 待ち受けているのはレッツェ選手だぁー!」


 フェレッツェン・ケインタランが度胸を決めて立ちはだかる。空中を踊った剣閃が力場の金線を弾き飛ばして隙を作った。そこへ待っていたのはデモリナス・ハーザである。上段に構えていたブレードが神速の斬り落としを放つ。


「ここでディーモ選手の強烈な一撃ー! 決まったかぁー!?」


 ヴァラージの受けた手の平には小さなリフレクタ。そこで紫電を撒き散らしながら拮抗している。


「はあぁ!」

「シャッ!」


 押し合いになるかと思ったところでデモリナスのルーメットは横っ飛び。直前まで機体のあった場所を生体ビームが薙ぐ。


「あぶなーい! 間一髪の判断でしたぁー! これは凶悪ぅー!」


 そこへ背後と横合いからチェインとフェレッツェンが斬り掛かる。リフレクタでしのいでいるがヴァラージは攻め手に欠く。二人はフォースウィップを振るう隙間を与えない。


「生体ビームの癖をよーく知ってやがんな。チャージの隙を狙うかよ」

「当然でしょう? 生体ビームもブラストハウルもチャージタイムっていう弱点があるのよ」


 通常兵器に対する防御力が高く、難敵に思える怪物も攻撃には弱点がある。そう分析され対策部隊では攻略法がある程度確立されているが、街中に突如として出現するとなれば対策は限られるという。


「押し切るぅー!」

「無理しないでよ、レッツェ」


 剣士フェンサー組で追い立てたいところなのだろうが現実には厳しい。ナビが送られ、両機が下がると同時にバルカンビームの射線が集中した。白兵戦を続けるのは危険だという判断だろう。


「正解だな。引っ張ってたらブラストハウルを喰らったと思う」

「押し引きは任せなさい」


 グレオヌスの指摘は正しい。ミュッセルももう少しで警告を発するところだった。ヴァラージ攻略が難しいのは、遠距離から近距離まで攻撃法が豊富な点である。今度は生体ビームが発射されて砲撃手ガンナー組が跳ね退く羽目になる。


「なんと、ナクラマー1の濃密でスピード感あふれる攻撃にも耐え抜くのかー! この怪物、半端ではありません! 本当に退治できるのかー?」


 デモリナスが狼系獣人種アゼルナン特有のパワーアタックを仕掛け、揺らいだところでチェインとフェレッツェンが攻撃するという戦法。近くの敵に意識を集中するとバルカンによる狙撃を挟んでガンナーを追わせる。ヴァラージを巧みに動かしてルートを辿らせていた。


「これは噂に違わぬ名将だね、コマンダー」

「お褒めに預かり光栄よ。集中を乱さないで耐えてくれれば、このまま居住ブロックまで連れていけるのだけど」

「女性の期待に応えなければ男が廃るってもんだ」


 幾度かくり返された攻防に変化が生じたのは数百mは進んだところ。狙撃に合わせてフェンサー組が散ったタイミングでヴァラージはリフレクタを多重展開して防いだ。


「同じパターンを続けるのも限界が……」

「避けろぉー!」

 そこでミュッセルは吠えた。

「なに!?」

「くはぉ」

「シーヴァ!」


 ガンナーの一人が跳ね跳んで転がる。リフレクタ越しに放たれたブラストハウルが直撃したのだ。危険を察したもう一人が駆け寄って引き起こす。そこへ生体ビームが襲い掛かり、起こそうとしたチマ・ドゴイネスのルーメットは左足を根本から切り落とされる。


「さっさと起こして逃げろ!」

 ミュッセルはヴァン・ブレイズを割って入れる。

「起きろ起きろ、シーヴァ!」

「あ……う……」

「飛べぇ!」


 重力波グラビティフィンを展開したルーメットが飛んで逃げようとする。そこへ続けて発射された生体ビームはブレードナックルで弾き飛ばす。

 二門とも発射したのでチャージタイムがあるが、ジャンプしたヴァン・ブレイズに次なる攻撃が襲い掛かる。ブラストハウルだ。


「くっそ、空中じゃ!」

 攻撃線は戦気眼せんきがんに映っているのに端子突起ターミナルエッジの出力だけでは間に合わない。

「くはっ!」

「ミュウ!」

「大丈夫だ。出力上げて抜いた。大破機をなんとかしてくれ」


 反重力端子グラビノッツの出力を最大にして反動で押しやられることで威力を削いだ。しかし、ヴァン・ブレイズは遠く撃ち飛ばされてしまう。


(こんなやり方じゃそのうち死人が出る。どうにか生体ビームだけでも使えねえようにしねえと)


 ミュッセルはグラビノッツの出力を下げて大地に降り立った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る