怪物とクロスファイト(4)
「
エナミは記録し、協力チームに情報共有していく。
「あとは
「ご存知なんですか?」
「ええ、一応。
メリルは非常に詳しい。
「速度や射程はそれほどじゃないにしても不可視攻撃、回避が困難だわ」
「ミュウなら躱せます」
「どういうこと?」
教えられている
「赤髪の子、ライナックだったの」
納得顔をしている。
「ライナック?」
「戦気眼持ちの能力者のこと。それで、ね。なるほど」
「不満そうですけど」
メリルはいい顔をしていない。
「ちょっとね。あんまりいい印象がなくって。こっちのこと、気にしなくていい。察知したものをリンクできれば対策打てるんだけどどう?」
「戦気眼能力は
「そっかぁ。そんなに虫の良い話はないのね」
メイド服の遺志の回答を残念がる。
ミステリアスなコマンダーはため息一つ。彼女はかなり知識の引き出しを持っているようだった。ヴァラージに関してはマシュリと変わらないかもしれない。
「そろそろ頃合いかしら?」
「十分に注意は引けたと思います」
戦闘状況を確認。
「機を見てミュウが釣りに掛かるでしょう。合わせて動かします」
「呼吸が読めるの? まるでツインブレイカーズのコマンダーみたいじゃない」
「ずっと見てますもの。許しがもらえるなら務めたいくらい」
からかうメリルにエナミは応酬した。
◇ ◇ ◇
「惜しいぃー! あわや一撃というところを逃してしまいましたぁー! 驚異的な反応速度ー! ツインブレイカーズの二人にも引けを取りません!」
フレディは普段の試合と調子を変えない。
「これは長期戦の様相を呈してまいりました!」
ヴァラージが蹴立てた土を被って追撃できない。視界が戻ったときには距離を取られていた。
「わかったかよ?」
無理する場面ではない。
「軽々しく飛び立とうなんてしたら二の舞いだかんな?」
「シュー」
「いつでも叩き落として、今度こそ仕留めてやんぜ」
明らかに雰囲気が変わる。二対ある黄玉のような複眼がすり足で徐々に接近するヴァン・ブレイズを睨みすえる。ミュッセルが飛び込む気配を見せた瞬間、ヴァラージの口が開いた。
「っとぉ!」
赤いアームドスキンは横っ飛び。同時にグレオヌスもレギ・ソウルを逃がしている。ミュッセルが避けるのに合わせて反射的に回避行動をするように意識付けがされていた。
「ジャジャッ!」
「簡単に喰らうかよ。至近距離でのそいつはヤバいかんな」
すかさずレギ・ソウルが左手に握ったビームランチャーを発射。ヴァラージは身体の前にリフレクタを展開して阻む。そこへミュッセルはビームもかくやというダッシュで密接する。
宙にひるがえる金色の鞭は左手のリフレクタで逸らせながらもぐり込む。深く前傾すると、怪物の左胸に掌底を当て全力の
「グギャギャ!」
「痛えだろ。中途半端に突き放そうとすりゃ、こいつを喰らうことになんぜ?」
悶えるように上半身を揺らしたヴァラージが鋭く尖った鉤爪を振りおろす。左の拳甲で受け止めたヴァン・ブレイズは右手で手首を取って脇へと引き込む。前後するように突きだした肘が胸の中心へ。
「
30mの巨体が2mは浮いた。浸透型衝撃波が背中まで突き抜ける。苦悶で開いた口からなにかが抜けていった。
「こうやりゃブラストハウルのチャージも抜けるのか。っても、そんな簡単じゃねえな」
「ミュウ、後ろ!」
気づけば螺旋光が迫っている。質量を伴わないだけに回避の必要性に逡巡した。結果的にそれは間違いで、叩かれた場所のビームコートが砕けて散る。仕方なくリフレクタで亀のようにガードし、ターンしつつ肘のリクモン流打撃で突き放した。
「くそったれ、こいつの懐に居続けるのもヤバいってか?」
「
連撃を入れられないのは痛い。組み立ての中で奥義に持ち込むから深いダメージを与えられるのであって、単発での効果は落ちてしまう。
「ミュウ、そろそろ」
「おう、十分だろうぜ。来い」
突っ掛かってきたところを怯んで退いたように見せる。決められた方向へと走りだし、レギ・ソウルも一射交えて並走を始めた。
「誰が来た?」
生体ビームが射線を踊らせ、疾駆しつつ弾けるように回避を行う。そこへ応射が加えられた。バルカンビームが尾を引いてヴァラージに直撃する。数発が甲殻を砕くが、すぐにリフレクタが発生して紫の干渉光に変わった。
「ちっ、甲殻が金属より脆い所為で衝撃が分散して貫通力が弱められたか」
「ダメージを与える効果しかないと思ったほうがいい。バルカンじゃ致命傷にならない」
民間治安協力官のグレオヌスにはビームランチャー携行の許可が降りても、さすがに今回かぎりの協力チームに威力の高い武装は許されない。
「ここで来たぁー! 参戦したのはチーム『ナクラマー1』だぁー!」
待ちかまえる一団に向けてミュッセルはヴァン・ブレイズを加速させた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます