怪物とクロスファイト(1)
驚いたことに、要請された全てのチームが受諾する。作戦行動計画が速やかに各チームに伝達され準備体制が整えられた。
「それぞれのチームの特色を加味して配置されます。まずは準備位置で待機しておいてください」
リフトトレーラーで移動しつつエナミは指示する。緊張がないといえば嘘になるがそうもいっていられない。相談相手には事欠かないからだ。マシュリに加え、メリルも隣に同乗してきた。
「状況に応じたチーム投入は任せるわ。あなたのほうがきっと得意」
メリルは淡々と段取りを進めていく。
「なんでそんなに落ち着いていられるんです?」
「育った環境が特殊なのよ。こんな雰囲気も日常だったわ」
「どういう……、詳しく聞いてる場合じゃないですけど」
驚くというよりは呆れる。
「それより、このリフトトレーラーどうなってんの? スタッフルームのコマンドコンソールより充実してるじゃない」
「あなたもマチュアの養い子ならわかるでしょう? わたくしの移動指揮所です」
「はいはい、そうでしょうよ、マシュリ」
彼女はゼムナの遺志との接し方も慣れている様子だ。変にかしこまったり、へりくだったりするのは嫌われるというのも理解している。
「で、まずはツインブレイカーズが仕掛けるって?」
作戦の導入部は決まっていた。
「はい。ヴァラージを確実に追わせるところから始めないと話にならないって」
「だろうがよ、先輩? 作戦骨子じゃん」
「まあそうね。あんたたちが最適」
キャリアへ続くハッチからミュッセルが覗いている。すでにヘルメットも被って出撃準備を終わらせていた。
「気を引かないと迂闊に飛ばせないもの。あれの一番厄介な点が生体ビームの性質なわけだし」
メリルは理解が深い。
「まずは奴が目ぇ離せねえようにしてやる。全てはそれからだ」
「フィンガードも使えないのによくやること」
「ガードの手段が限られるんだから無理しないでね?」
出撃前に掛ける言葉ではないのはわかっていても言ってしまう。
「しねえよ。まずは味見するだけだって。四天王でも手に負えないようなら作戦は中止しねえといけねえ」
「中止にしたら自分たちだけで戦うつもりなんでしょ? そんなの……」
「いいか、エナ? 最強ってのはな、誰かが死んじまうかもしれないような危機に、真っ先に死ぬ場所にいなきゃいけねえ奴のことだ」
一本気な少年が恨めしい。どうあっても譲りはしないと言われたようなもの。食い下がっても止められない。
「じゃ、行ってくる」
「気を付けて」
「任せとけ」
ハッチが重い音を立てて閉まるまで目が離せなかった。最悪、別れになるかもしれないのだから想い人の顔を目に焼きつける。
「大丈夫よ」
メリルがウインクしてくる。
「彼みたいな人は、こういう事態を打破するために生まれてきたようなものなの。つまり、成し遂げて帰ってくるわ」
「信じてます」
「その一助ができる位置にいられるのは幸せなことじゃない? わたしは遠くから応援しかできなかったわ」
(強いはずね。メリル先輩は色んなことを乗り越えてここにいるんだ)
言葉に刻まれた深い感情が響いてくる。
エナミはトレーラーヘッドのダッシュボードに全力を注ぎ込むと決意した。
◇ ◇ ◇
「いけるか、相棒?」
ミュッセルは直接リンクで呼び掛ける。
「もちろんさ、相棒」
「見えてんな?」
「ああ、厳しいな」
エナミたち相手では、わかっていながらも口にしなかった状況を再確認する。ヴァラージはすでにアンチV弾頭の発する霧を浴びてもほとんどダメージを負わなくなっている。
「おそらく、体内に直接撃ち込むぐらいでないと効かないだろうな」
グレオヌスが予想を語った。
「実際んとこ、ほぼ不可能って話だろ?」
「甲殻を剥ぎ取って動きを止めるしかない。そんなことするくらいならビームで焼いたほうが早い」
「って寸法だ。お前の出番だぜ」
今日のレギ・ソウルはビームランチャーを装備している。
「動きを止めるのが俺。仕留めるのがお前。ってーことはリングに突入すんのは俺たちだけで十分じゃん」
「そんな気はしてたさ」
「体力残しとけって話だぜ」
生体ビームの狙撃を避けるために、二機はリフトトレーラーで現場に向かっている。その他のチームは指定した待機場所で待っているが、彼らも本格的な武装が許可されていた。ただし、流れ弾での危険が少ないビームバルカンではあるが。
「案外、機能するかもしれない。普段使ってるランチャーより連射が効く」
射線も見えやすく当てやすいという。
「その分、位置が丸わかりじゃん。無理しなきゃいいけどよ」
「そのへんは僕たちでフォローするしかないな」
「並走はやむ無しってとこか」
二人だけでの打ち合わせはそのくらいか。コクピットに浮かぶ通信パネルの相棒に目顔で告げた。
「ミュウ、グレイ、聞いて」
新たなパネルにはユナミ局長の顔。
「今回はあなたたち頼りではないわ。サポートも付いています。無理のない程度で。エナを泣かせたくないのよ」
「多少の無茶はしゃーねえだろ? 今の戦況が読めねえあんたじゃねえ」
「……隠せないわよね。でも、無理させたくないのは本当。わかって」
ミュッセルは口の端を上げて親指を立てた。
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