怪物とクロスファイト(2)

 戦闘中のエリアから離れてリフトトレーラーを停車する。ミュッセルとグレオヌスは自機を起こして戦闘準備に入った。自身でコントロールできる索敵ドローンを飛ばしてもらったエナミはメリルとともに詳細な現状把握に励んでいる。


「やはりアンチVの効果は薄れてきていますね?」

 被弾数も少なく、目に見えるダメージもない。

「でも、嫌がっている様子はあるわ。痛みは感じてるんじゃない? そういう感覚がある仮定での話だけど」

「痛みは感じてるはずだって前にミュウも言ってました。生物の自己保存本能に直結してるからって」

「無いと不都合が生じるってわけね、了解」

 全ての要素を戦術に取り込む生粋のコマンダーらしい発言である。

「では、攻撃を開始します、ユナミ局長」

「いつでも。現場には合わせて動くよう周知させてあります」

「OK。じゃ、コンバットオープン」


 メリルが指示すると真紅と銀灰のアームドスキンが行動開始する。弾きだされたように疾走した。


「おーっと! 赤と灰の弾丸が撃ちだされたぁー!」

 名調子が刻まれはじめた。

「惑星メルケーシン首都タレス市民の皆様、どうお過ごしでしょうか? 不安を抱えておられる方もいらっしゃるかと思われます! お前の声なんか聞いている場合じゃないとおっしゃられるかもしれませんが、ここはひと時、わたくしお馴染みリングアナのフレディ・カラビニオに耳をお貸しいただきたいと思います!」


 突然の中継開始にローカルネットからざわつきはじめる。何事かと思った人々が注目し拡散を始めた。


「自宅で待機していらっしゃる方、こんにちは。各地のシェルターに避難されている方もこんにちは」

 律儀に挨拶している。

「どうして、わたくしがお騒がせするかと申しますと、皆様御存知のとおり、タレスを未曾有の危機が襲っているからです。未曾有といえど、たった半年ぶりのことではありますが」


(意識的に口調を軽くしてるのね。深刻になりすぎないように)

 フレディのアドリブ力に感服する。


「御覧ください、立ち上がったのはこの二人! 『天使の仮面を持つ悪魔』、『紅の破壊者』、『震撼の剛拳』ミュッセル・ブーゲンベルク選手ー! そして、『狼頭の貴公子』、『ブレードの牙持つウルフガイ』、『無双の神剣』グレオヌス・アーフ選手ー!」

 いつもと変わらず紹介を開始。

「この二人の動員に際し、不肖わたくしめにもお声掛けいただき、皆様にお伝えする次第にございます」


 不謹慎を問う声がなくはない。しかし、情報の少なさが不安を助長させる状況下では歓迎する意見も増えてきていた。


「わたくしが出しゃばってくる以上、これだけではございません!」

 テンションを上げてくる。

「察しの良い方はお気づきのことかもしれませんが、このヴァラージ撃滅作戦には有名人気チームも参戦する計画になっております。皆様それぞれご贔屓のチームもあられるかと思います。彼らの登場をお待ちください!」


 事ここに至って話題騒然となり、一気にローカルネットは騒がしくなる。同時にハイパーネットにも拡散する傾向が強くなった。


「参加チームは以下の通りとなります!」

 流暢に読みあげはじめる。

「なくてはならないのは四天王の面々! チーム『ナクラマー1』がスピード重視の戦法で攻め立て、チーム『ゾニカル・カスタム』が地味でありながらも効果的な戦術で痛めつけ、チーム『テンパリングスター』が華麗に舞って弱点を突き、チーム『フローデア・メクス』が絶対的な強者の風格で退けてくれるでしょう!」


 紹介されるごとにファンの声が高まり、期待の声が増えていく。前代未聞空前絶後の出来事に不安を忘れて熱狂する人々も現れてくる。


「さらに加えて、ただいま爆進中のチーム『デオ・ガイステ』が華を添えます!」

 挙げ連ねていく。

「そして急登場からリングを席巻しつつあるチーム『ギャザリングフォース』が皆を守ろうと立ちあがりました! そしてそして、忘れてならないこのチーム、クイーン『フラワーダンス』もいます! なんとスクール生女子チームが自らの危険も顧みず武器を取ります! 皆様、熱い応援をお願いいたします!」


「よくやるわ、この人」

 メリルが苦笑いしている。

「プロですもの」

「ほんと、あとあと考えればこんな仕事引き受けられないものね」

「矛先を逸らしてくれます」


 成功しても失敗しても協力してくれたチームの選手が批判にさらされるのは避けたい。そのために雰囲気を変えるべく動いてくれたのだ。祖母の洞察力にはまだ敵わないと思わせられる。


「待て待て。じゃ、うちの近く歩いてんの本物のフラワーダンスなのか?」

「ギャザリングフォースもいるぜ。居住ブロックに配置してる。みんな、邪魔しないよう避難して中継観よう。絶対、特等席だもんな」

「レン様の活躍を見逃したりしたらファンの名が廃ってしまうわ。急がないと」


 当然のように良い流れに変わっていく。急な情勢変化でパニックになるのも防げるはずだ。


(他人事と思わないでいてくれれば安全確保できる。そうしたらミュウたちも気兼ねなく戦えるもの。物ならいくら壊れてもいい。誰も死なないで解決できれば誰も背負わないですむ)


 エナミはヴァン・ブレイズの走る背中に祈りを捧げた。

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