エナミの作戦(3)

「これは、なんというか……」


 アレン・アイザック副局長が声を震わせるのも致し方ないとユナミ・ネストレルは思う。孫娘のエナミの提案はそれくらい大胆なものだった。


「まるで子どもの考えたものでは?」

 彼女は吹きだす。

「エナは子どもですよ。当然です。ただ、子どもであるがゆえに真っ直ぐで、大人が躊躇ってしまう計画なの」

「そうですね。すみません」

「そう、大人では思いつきもしないかも」

 憧れを覚えたように指を伸ばす。

「それだけに有効に思えます。そして、一緒にいるゼムナの遺志が否定していない。むしろ推している観があります」

「無視できませんか」

「少なくともミュウはそのつもりでしょう」


 血気盛んな少年のこと、その気になれば突き進むであろう。確かに成功すれば被害を最小限に済ませられる案であった。


(盲点もある。いえ、意図的に無視している点が)

 そこをマシュリがどう考えているか問い質したいがそれどころではない。


「どうなさいますか?」

 アレンも助言に困っている様子。

「やりましょう。もちろん状況を注視しつつ、途中で中止にもできる体制を整えて」

「わかりました。警備部に星間G平和維P持軍Fの、本作戦用の指揮体制を構築させます」

「任せるわ。わたしはミュウたちと内容を詰めます」


 ユナミはミュートにしていた通信回線を再開させた。


   ◇      ◇      ◇


 通信パネルに戻ってきた祖母の顔は決意を伴っていたのでエナミは安心する。逆にユナミが作戦を飲んだのが意外でもあった。


(修正された作戦を警備部に実施させるのかと思ってた。それにミュウたち二人が組み込まれるかもって)

 一番の懸念だったのだ。


「基本のラインは素案どおり実行します。必要な動員メンバーをどう考えていて?」

 すでに実務者の顔だ。

「四天王チームとデオ・ガイステ、ギャザリングフォースに動員掛けろ。フラワーダンスはもう同意させた。配置は受けたところが確定してから決める」

「ミュウ、それは局長が……」

「エナ、本局は警備部を指揮してルート確保のサポートをします。クロスファイトチーム側はあなたが指揮なさい」

 とんでもないことを命じられる。

「で、ですが、お祖母様!」

「総指揮はわたしです。発案者であるあなたが一番全体を把握しているでしょう? 修正も素早く掛けられるはずです。いいですね?」

「……はい」


 独断が過ぎる。祖母は全ての責任を負う覚悟を決めているのだとわかった。最悪、今の椅子を追われてもかまわないくらいの気構えで。


「メリル・トキシモも動員します。連携すれば効率的でしょう?」

 すでに決定事項みたいに言う。

「あの方ですか。心強いですけど」

「では、それで。まずは協力要請しますから待っていなさい」

「はい」


 回線を維持したまま一度離れる。どのチームが受諾してくれるかで配置から考えなくてはならない。急に責任がのしかかってきた。


「まったくタヌキだぜ、局長は」

 ミュッセルが苦笑している。

「え、なんで?」

「言ってなかったがよ、ビビ、メリルは全知者の教え子らしいぜ」

「全知者って司法ジャッジ巡察官インスペクター『ファイヤーバード』の?」

 エナミも仰天した。

「そうだったの?」

「おう。あの女を巻き込んで、ヴァラージ対応の主役の司法部を黙らせる計算だ。あとでつべこべ言わせねえって体制を取ろうとしてんじゃん」

「そこまで」

「もちろん、メリルなら役に立つから歓迎だがよ」


 メリルのコマンダーとしての実力も買っている。だから、作戦に加えるのは申し分ないと思っているらしい。


「彼女が動くならギャザリングフォースは確実だな」

 グレオヌスも思案を巡らせる。

「これで居住区画の市街地戦は固められる。あとは四天王が二つ三つでも動いてくれりゃ平地は任せられんだがよ」

「難しいところはテクニカルチームで担当するわけね」

「そうだ、サリ。エナやメリルの指揮にも慣れてるから最適だろ?」

 だんだんと決まってきた状態にフラワーダンスメンバーも引き締まってくる。

「問題は居住区画の避難状況。わたしは屋上使えれば大丈夫だけど、ミンは走れないと意味ないから」

「そいつは局長に任せとけ。たぶん避難させて、大外にGPFを配置する。アンチVで牽制させて道を逸れねえようにな」

「なるほど」


 ルートを大判マップにして指でなぞっている。ほとんど作戦指揮所に近い雰囲気になってきた。


「少し離れた位置でリフトトレーラーを走らせます。エナ、あなたはそこで指揮を執るのです」

 マシュリが決定する。

「あ、はい」

「もう一台を換装機材ベースにします。ヴィア、積載してください」

「承りました」

 レギ・ソウルのトレーラーが用いられる。


 そこで別のパネルが開いて意外な人物の顔が見えた。全く考慮していなかった顔ぶれまでもが動員されようとしている。


「やあ、ミュウ君。よろしく頼むよ」

「なにしてんだ、てめぇ?」

「星間管理局の作戦広報役に任命されてね」

 なんとリングアナのフレディ・カラビニオである。

「市民が必要以上に不安にならないよう、僕がライブ中継することになったのさ。ユナミ局長の粋な計らいでね」

「グラビノッツクラフターか。落とされんじゃねえぞ?」

「マシュリさんが祈ってくださるなら僕はどんなところからも生還してみせるさ」

「わたくしの上を飛んでいなさい。回線を制御します」

「喜んで!」


 想定したより遥かに大げさになっているとエナミは頭を抱えた。

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