エナミの作戦(2)

 討議している間にも事態は進行している。足留めをしていた星間G保安S機構Oのアームドスキン部隊は市街地側へと移動しはじめた。ヴァラージがアンチVに対する再生力を上げているのである。


「のんびりしてる暇なさそうだぞ。頭数が必要だってんならさっさと集めようぜ」

 エナミの意見にミュッセルも折れてくれた。

「まずは具申してみよう。そのうえで星間G平和維P持軍Fがどのくらいの規模で動員できるか確認すべきだ」

「それなんだけど……」

「どうかした?」

 言い淀んでいるとグレオヌスが不思議そうに目を細める。

「アンチVランチャーを使える機体はルートから逸れないよう牽制してほしいと思ってるの。どうせアンチV弾頭は彼らしか扱えないんだし」

「じゃあ、装備してない部隊を前面に置いて戦わせるのかい? それはあまりに危険だ」

「そうじゃないの、グレイ。メルケーシンには驚くほど戦闘慣れしていて、かつタフなアームドスキンを持っている編成が幾つもあるから協力してもらえないかと」


 あまりに思いがけない提案だったのだろう。大きな顎がパカリと広がる。三角の耳がスッと寝て驚きを示した。


「まさか、クロスファイトのチームを動員する気なのかい?」

 エナミはこくんと頷く。

「そいつはいい。確かにうってつけだ。まあ、使えるチームは限られるだろうがな」

「待て待て、ミュウ! 突拍子がなさすぎる。いくらなんでも無謀だ」

「もちろん、本人の許可をもらってからになるし、それ以前にお祖母様が……、ユナミ局長が了承してくれないと話にならない。でも、現状動員できる可能性がある体制でベストの選択をしようとすれば、たぶんこれが正解」

 彼らが近接戦闘のエキスパートなのは自信を持っていえる。

「どのくらいいる? 四天王を引っ張りだせば事足りんのか?」

「それだと少し足りないかも。1チームの負荷が大きすぎる」

「他だとどこが使える? デオ・ガイステ、ギャザリングフォースあたりは使えるな」


 ミュッセルが指折り数えている。その様子を見て、顔を真赤にして怒りを示しているチームがあった。


「あんた、あたしたちを忘れてるんじゃないでしょうね?」

 ビビアンが語気荒く指を突きつける。

「頭数に入ってるに決まってんだろうが。お前たち使うのは一番大変な居住区画でだ。覚悟しとけ」

「それならいい!」

「なんで怒ってるんだか」

 グレオヌスがため息交じりに言う。

「みんなはいいのかい?」

「なんかわりと腹括れてるのよね」

「仕方ないかも。エナだけ格好つけさせたくないし」

 ガンナー組は首肯する。

「気合入ってきたのにぃ」

「充填完了」

「あなたたちは……」


 メンバー全員が同意する。ラヴィアーナやジアーノが制止する暇もない。


「すみません。ホライズンを使わせてください。お願いします」

 唇を噛んでいた主任もあきらめざるを得ない風情だった。

「危ないと感じたらすぐに逃げること。絶対にですよ?」

「はい!」

「大丈夫だ。無理はさせねえ。要は俺たち二人の負荷さえ減ればいいんだからよ」

 赤髪の少年は胸を叩く。

「んじゃ、さっさと段取り取り付けっか。いくらももたねえぞ、あれは」

「良くないな。降下してくるGPFの部隊も直接は狙えない。生体ビームの餌食になってしまう」

「うっし、局長呼び出すぜ。応答してくれりゃいいがよ」


 ミュッセルは通信パネルを立ちあげる。予想外にすぐ応答のアイコンが瞬いてパネル内に祖母の顔が映った。


「よかった。連絡を取ろうとしていたところなのよ。今、どこかしら?」

 息せき切って話しはじめる。

「ヘーゲルの訓練場だ。エナも一緒にいる。心配ねえ。話す暇あっか?」

「ええ、出動してくださる? 状況は把握しているのかしら」

「見てる。例のブツがあんまり功を奏してないのもな。だから俺たちを探してたんだろ?」

 ユナミは珍しく苦い表情を垣間見せた。

「きちんと準備してたつもりなのにこの体たらく。ごめんなさい」

「あんたが謝るまでもねえ。マシュリは耐性個体だって言ってる。とんでもねえ馬鹿やった連中がいやがるな?」

「首謀者は確保済み。でも、肝心のヴァラージをどうにかできなくては意味がないわ。申し訳ないけど協力してちょうだい」

「それについて相談がある。まずはエナの話を聞け」


 エナミも通信に割り込んで三者にする。挨拶しつつ、並行して策定した作戦をデータにして送った。準備していたルートにオーバーライトして手順の全容を書いてある。


「前提は省きます。私の思いつくかぎり、現状でベストの作戦です。まずは検討して可否をください」

「こ……れは……。待ちなさい。検討します」

「よろしくお願いします」


 一度消える。いくら祖母でも二つ返事で応じられる内容ではない。時間は必要だろう。その間に状況確認する。


「押されてんな」

「ああ、物量を投下するほどに効かなくなる状態だ。なんて適応性を」

「場合によっては形態さえ変化させます。ヴァラージの最も怖ろしい部分と言えなくもありません」

 なんの感情もにじませずメイド服の美女が言う。


(受けてもらえないとマシュリさんは二人を出撃させてあの場で処理しようとしてしまう。二人の危険も顧みずに)

 ユナミの決断を願う。


「たぶん局長は受けるしかねえぞ。気合い入れとけ。最悪、俺たちとフラワーダンスでどうにかドームまで引っ張ってく羽目になっからな?」

「も、問題ないわ」


 ビビアンが怯えを隠せないのも当然だとエナミは思った。

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