四天王フローデア・メクス(7)
エイクリンはレギ・ソウルを前にじりじりと移動する。最前まではユーシカが攻撃しやすいよう隙を作るべく能動的に動いていたが、彼女と入れ替えにサラとベスが戻ってきた。今度は二人が作った隙を狙う立場になる。
「目立たないようにしているのは意図的にでしょうか?」
狼頭の少年が尋ねてくる。
「確かな実力をお持ちです。女帝の異名を誇るあの人にそう見劣りしない。引き立て役でかまわないと?」
「彼女に引き上げてもらっているだけだ。俺など知れている」
「ご謙遜を。ユーシカ選手が欠けた状態でも斬り込ませてくれないじゃないですか」
正直、おののいている。自身を含めて並ぶ者なしと思っていたユーシカ。ところが、長年寄り添ってきた二人をしてこの少年一人を落としきれなかった。
剣闘技術、パワー、スピード、どれをとっても彼女に匹敵するか、あるいは上かもしれない。ツインブレイカーズが四天王撃破を重ねてきたのも当たり前に思える。
「皆がそれぞれの役割に徹し、機能していればこれくらいは可能」
「なるほど。全体に卒がないですね。仕掛けどころが難しい」
実際、レギ・ソウルはかなり動かされている。ベスに足を刈られ、サラの角度ある狙撃を受けつづけ、ずっとブレードを振っていた。
それなのに隙らしい隙を見つけられない。躱すだけでなく、必要に応じてブレードの腹でガードまでしてみせる。ノックバックで崩すのもままならない。
(ユーシカだけに頼って勝ってきたのではない)
皆が努力を怠らず、トップチームの地位を保ってきた。
(しかし、今シーズンはあまりにドラスティックに変化してしまった。このままでは彼らのような存在に置いていかれてしまう)
従来の手法、トップチームが運営メーカーの技術バックアップを受け、選手が巧みに使う。それだけでは勝ち残るのは困難になってきたと感じる。
サラやベスも機動速度が上がり、移動してから狙撃に入る時間は短縮されている。搭載されたイオンスリーブのお陰でチーム全体の戦闘力も上がっていた。それなのに少年二人を抑えきれない。
「それよりも君らだ。極端にテンポの上がった試合内容にたった二人で立ち向かっているのは無理があるんじゃないかと心配になる」
「いえ、変わったのは機体だけなんですよ。僕たちは元よりこれくらいの戦闘ができる体術を持っていたんです。もちろん耐えうる肉体も」
認めざるを得ない。跳ねてきたブレードはエイクリンの受けなど容易に弾いてしまう。そこから返しの流れなど、どうにかしのぐのが限界だ。
「時代なのだろうか。四天王と呼ばれるトップチームを頂点に安定してきた体制も終焉を迎えるのか」
「ミュウはぶっ壊すと言っていますからね。彼が懸念しているのは停滞だと思います。せっかくのクロスファイトという開発畑ができたのに、そこで競ってる人間が安定を求めれば停滞する。変えたいのは選手の意識なのでしょう」
(そうか。こうして考えさせられているのもミュウ君の手の内というのか)
勝利への貪欲さが選手の意識改革を促す。
「やはり時代なんだな。で、君らがその先駆者か」
「ここは変わっていけばいい。乱れるほどに技術は進歩します。そして、その先にあるのは……」
彼らの意図を知りたいと思う。
「技術の偏重による大乱を防げます。安定するのは星間銀河圏だけでいいとは思いませんか?」
「グレイ君?」
「まあ、単なる希望ですよ」
(違うな。本音だ。そうか。これが若さか)
少年らの柔軟な思考にエイクリンは感じ入った。
◇ ◇ ◇
しっかりとしたバックスイングから落としたブレードはヴァン・ブレイズの拳甲を削り紫電を撒き散らす。引き戻しつつ放った左の剣身は拳で腹を打たれて大きく弾かれた。
(小手先のテクニックなどまるで通じない)
数分に渡る打ち合いを通じてユーシカは驚きを禁じ得ない。
今のところエイクリンも健在だ。しかし、早めに戻らねばいつまで持つものでもあるまい。レギ・ソウルはそれくらい強敵だった。
(それでも……)
ミュッセルも血が湧き立つくらいに好敵手である。恋人のことを忘れて没頭してしまいたくなるくらいだ。四天王チーム以外でこんな感覚を味わうとは思ってもいなかった。
「なんだよ。本気出せよ」
少年が鼻を鳴らす。
「お前がチームカテゴリ最強のフェンサーじゃねえのかよ。この程度だってんなら看板下ろしちまえ」
「確かに、礼に失するか」
「お、いい感じじゃん」
ブレード捌きで手抜きしているのではない。が、本気ではないのも事実。彼女はまだ、ミュッセルを敵として扱っているのではない。屠るべき敵として。
「大人げないとも思う。しかし、悔いることなく受け取りたまえ。私の本気を」
「来いよ。喜んで受け止めてやんぜ」
意識して殺していた戦気を放つ。戦場で彼女が会得し、生き残るために必要としてきたものを。敵を威圧し、本来の力を発揮させなくする。実力以上に大きく見せねば明日もない命であれば。
(恨むな、少年)
ユーシカはわざと構えも大きくしてみせた。
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