カウントダウン(2)

 着替えの一悶着も終え、どうにか格好がついたフラワーダンスの女子たち。エナミはまだ恥ずかしげにしているが、ビビッドカラーのピンクタイツの足はミニスカートに映えていた。


(スタイルいいから様になる。可愛いんだからもっと誇ってもいいのに)

 ビビアンはうらやましくて仕方ない。


 整列するとジアーノ副主任の目尻が下がる。見られている意識はあるが今から搭乗するのにパイロットブルゾンを羽織るのも変な話である。


「間もなく四回戦です。ナックルガードは間に合わなかったけどニープレートは換装しています。変化ないはずだけど一応留意してください」

「はい!」

 ラヴィアーナ主任からの注意点が告げられた。

「私からは以上だけど副主任は?」

「特にないです。みんな、頑張ってね」

「ありがとうございます」

 お礼を言ってから向き直る。

「じゃあ、あたしから一言」

「はい、どうぞ」

「ここを勝ったら最後の再抽選。本トーナメント進出よ。先も見えてくるし賞金獲得も確定するわ。オープンでの入賞はフラワーダンス結成以来の快挙。みんなで喜び合うためになにをすべきか各人で考えてみて」


 様々な訓練をこなしてきた。シフトも、途中からの変化にも耐えられるよう鍛えている。臨機応変な対処が可能になっているはず。上を狙うなら、あとは試合の流れによる個々人のアドリブ力に頼るしかない。


「あちきに任すにー」

 ユーリィも気合十分。

「うん、かなり周りを意識できるようになったもんね」

「フォローはお任せ」

「綺麗に抜いてやるから」

 サリエリ、レイミンの後衛バック陣も心配ない。

「今日もビームランチャーだから動くけどよろしく」

「ぼくが抑えるから」

「ウルが機能したら勝ち確定だからお願い」


 ウルジーの働き如何でビビアンがどれくらい動けるか決まる。前衛トップを一人でも抑えてくれたら優位性は上がるのだ。


「問題なし。本トーナメントでいよいよあいつらと対決よ。カウントダウンは始まってる」

 サリエリに見透かされる。

「二人は明日のレーネの日が四回戦。夜には本トーナメント表が出る。楽しみ」

「ミンまで」

「打ち負かすも恩返し」

 ウルジーまでもがその気である。

「ええ、勝ちにいきましょ。指揮はお願いね、エナ」

「頑張って。私はみんなを後押しするしかできないから」

「勝つわよ、みんなで!」


 円になって拳を合わせる。自然と笑顔になった。誰からともなく上に開いて掲げる。まるで花開く瞬間を示すかのように。


(もう少し。あとちょっとで念願のときが来る。負けてらんない)


 ビビアンは念じながら降着姿勢のホライズンの手に乗った。


   ◇      ◇      ◇


「ところでツインブレイカーズ、じゃなかったミュウ君はパスしたのかしら?」

 エナミはラヴィアーナに尋ねられる。

「春季試験はどうにか。翠華杯って目標がぶら下げられていると頑張れるみたいです」

「よかったですわ。お手伝いしてもらってるのに学業のほうに支障が出たとなるとご両親にどう思われるか」

「チュニさんたちはなにも言いませんよ。口出しするとしたら教師陣のほうです」

 ブーゲンベルク家は彼女に気遣いしているだけで勉学に熱心ではない。

「この年になって先生方に謝りに行くのは勘弁してほしいですわ」

「ですよね。ヴィア主任くらいだと先生に叱られたことなさそうですもん」

「ありませんわ。でも陰でなにを言われていたか」


 ラヴィアーナはメルケーシン出身ではない。籍を持つ国の学校では飛び抜けて優秀だっただろうと思われる。煙たがれる空気は察していたのかもしれない。


(地方だと色々あるもの)


 エナミも通ってきた道である。さすがに公務官オフィサーズ学校スクールほど粒ぞろいではない。幼年学校ジュニアでも明らかにわかるほど教師も生徒も質にバラつきがある。その中で優秀すぎる生徒は扱いに困るのだろう。


「努力するのは嫌いではありませんの。でも評価もされたいもの。そうなると飛びだすしかありませんでした」

 ヘーゲルという大企業なら応えてくれると求めた。

「道は自分で切り開くしかない。社会に出る前からそれを知っているあなたたちが輝いて見えますわ」

「その輝きはヴィアさんが灯してくれたんです。みんな感謝してるんですよ」

「そう言ってもらえると嬉しいですわ。ともに輝いていられるかしら」


 今が一番充実しているかもしれないと言う。それは運命に導かれる者たちへのご褒美なのだろうと思う。


(きっとなにかがある。そうでないとお祖母様がこんなにもプッシュしてくることはないはず)

 身に沁みて感じている。

(この運命は私やビビたちのじゃない。きっと、あの二人のもの。関わった人間をも巻き込む力が彼らにはある)


 そこへ至る道筋にもう乗っているのだと感じた。そして、徐々に近づいてきていると確信している。


「大丈夫です、きっと。私は未来への道標だって信じていますから」

「どういうこと?」

「もう少ししたらわかると思います。たぶん彼らと対峙したら扉が開く」


 しかし、それは大きな勘違いだったとエナミは後に知ることになるのだった。

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