強敵に向けて(1)

 ヴァンダラム、レギ・クロウともに背後にも敵を抱えている形になってしまっている。相手チームは二人を分断せず、挟撃して背中合わせにさせる作戦に出た。エナミは悪くない手だと思う。


(正面から攻めつつも後ろを気にしなくてはならない。同士討ちフレンドリファイアにだけ注意すれば相互にフォローすることも可能)

 隙を潰せる。

(ただし、相手が二人じゃなかったらね。まだ低くみてる)


 レギ・クロウは盾を掲げて前に出ようとしている。しかし、都度ビームを浴びせられて反動で下がらされていた。

 ヴァンダラムは飛び込もうと思えばできるのかもしれないが、グレオヌスを輪の中に孤立させるわけにもいかない。突破するなら同時と考えているのだろう。


(それができてしまう。要はタイミング合わせだけ)


 輪をすぼめて詰めに掛かろうとしている。しかし、二人にとっては機を計るに程よい距離になった。意表を突く手段に出る。


「なんだと?」

「なに考えて!」


 急にレギ・クロウがかがむ。ヴァンダラムはその背中に乗って後ろ宙返りで着地。さらにひねりを入れてジャンプした。二度目の着地場所は敵チームの真ん前である。


「うおらっ!」

「おごっ!」


 拳が鳩尾に突き刺さる。軽く浮いたアームドスキンは前かがみのまま倒れ込みそうになる。そこへ振りあげられた踵が落ちてきた。地面に叩きつけられてバウンド。大の字になって二度と動けはしない。


「しっ!」

「ううっ!」


 レギ・クロウも低くスピンして足を払い相手を浮かしている。肩に乗せて持ちあげると左拳を何度も突きあげる。半ば目を回したところへブレードを一閃しつつ離れ撃墜ノック判定ダウンを取った。


「逃げんな、こら」


 突破口を空けられると脆かった。次々とブレードの接触判定やバイタルロストを食らって落ちていく。全滅するまでに一分と掛からなかった。


「勝者『ツインブレイカーズ』! 三回戦も危なげなく突破ぁー!」

 リングアナは高らかに吠えた。


(この作戦も駄目。二人を追い詰めるには弱い。例えホライズンの機動力があろうとも……、ううん、機動力を活かせないからこそ意味がない)


 アリーナのエナミはフラワーダンスのコマンダーとして二人の攻略法を探っていた。


   ◇      ◇      ◇


 ノースサイドに凱旋したところでミュッセルは隣を見る。勝ったというのに素直に喜んでいない相棒をうかがった。


「まだ無理そうか?」

 直截的に尋ねる。

「まだ今ひとつ掴んでない」

「ゆっくりでもいいぜ。翠華杯はレギ・クロウで通してもよ」

「せっかく父が残していってくれたんだ。極力早く投入したい」

 グレオヌスはまだレギ・ソウルを実戦投入できないでいる。

「あんなにシャープな機体とは思わなかった。乗っているというより乗せてもらっているという感じだ。情けない」

「焦るなって」

「いや、僕の気がすまないんだ」


 今日の試合も親友の攻撃に冴えはない。新しい機体に引っ張られているかの如く一歩目に躊躇いが見える。その所為で簡単に挟まれてしまった。


「余計に足を引っ張る羽目になるとは」

 ため息をこぼしている。

「俺も責任感じてる。どうも癖のある駆動系だからよぉ」

「違う。特性に癖があるのは認めるが反応は良いしパワーも申し分ない。振りまわされているのは僕のほうなんだ」

「使い方が格闘向きなんだろな。俺はしっくりくるから」


 関節に矯める感じが作りやすくていい。剣闘技のようにストンと動くのとは別の動かし方だといえよう。粘る感覚がまだ体に馴染まないのだと思われる。


「いいのは確かなんだ」

 悩ましげな口調である。

「追従性が高い。ほぼ同じ身体感覚で動かせる。ジェルシリンダの高速駆動みたいなオーバーシュートがない。なのに僕の身体はそれがある感覚で動かそうとしてしまう。だから思ったとこにいかない。不器用なんだと腹が立つ」

「あー、難しい問題だ。お前なんてチビの時から当たり前にアームドスキンに触ってきてるんだろうからよ。染み付いちまってるんだろうぜ」

「それじゃ駄目なんだ。もっと簡単に掴めるようにならないと使い物にならない。予備機に乗ったら帰れなくなるような羽目になる」

 すでに将来のことを視野に入れて考えている。

「そいつは場数しかねえな。全力でいけんなら負けてもいい。そんくらいの気楽さでいいぜ」

「僕だって負けたくないんだよ。君と同じくらいにね」

「そいつは業なこった」


 笑い飛ばすがそうもいかないようだ。リフトトレーラーに機体を寝かせても優れない面持ちで降りてくる。背中をどやしつけても反応が悪い。


(こりゃ重症だな。ブルーもなかなかに罪作りなことをしてくれたもんだぜ。息子の将来を思ってのことなんだろうがよ)

 顔を伏せて苦笑いする。


「ま、悩んでみろ」

「ああ、次までに必ずものにするから待っててくれ」

「おう。その前に俺には強敵が控えてっからよ」

 少しは気休めになるか。

「強敵? 次の試合の前にってどういうことだい?」

「忘れんなよ。試験があるじゃねえか。学校の春季試験が」

「そうだった。君はそっちのほうが気掛かりなのか」


 ミュッセルはそのとおりだと深く頷いた。

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