トレンドリーダー(3)

 多めだと思われた料理も育ち盛りの旺盛な食欲によって消費されてしまう。残りはお菓子やスイーツになったあたりでも話題はトレンドのままだ。中心は選手なので、エナミはどうにか第三者目線でいられる。


「これだけ目立っちまったらよ、色々厄介事も増えるかもな」

 台詞はともかく、顔をほころばせながらクリームを頬張る姿は美少女のよう。

「どっかの会社がコマーシャルに使いたがるとかよ」

「う……」

「実は何件か来てるみたい。ワークスチーム契約だからクロスファイト運営からヴィアさんとこに話が行って、こっちに下りてきた」

 口ごもるビビアンに代わってサリエリが答える。

「マジか。早えな」

「困るだろうから、嫌なら断っておくって言ってくれてそうした」

「ビビってんじゃん」

 ミュッセルはケラケラと笑う。


 エナミも相談されている。コマンダーなので先方も無理にとは言っていないらしいが一員としてオファーはあったようだ。


(ビビったら私まで巻き込もうとするんだもの)


 彼女は選手と違ってプロフィールも公開していないし今後する気もない。ましてや顔出しするとなると、もっと面倒なことになる。さすがに両親は許可しないだろう。


「ま、エナは局長の縁故だから無理にしてもな」

 表情から察してくれる。

「お前らは断れねえんじゃね?」

「だから断ったって」

「そいつは他社だからだろ? ヘーゲルからのオファーだったら無理じゃん」

 思わぬ指摘だった。

「そうね。契約パイロットだから直接の社員じゃないにしても断りづらい。強制じゃなくても、よく思われないかもって考えちゃう」

「他人事みたいに言わないでよ、エナぁ」

「難しいのは事実でしょ? そのときは要相談。たぶん、ヴィアさんが守ってくれると思うけど」


 しかし、正社員である彼女こそ拒みづらい案件かもしれない。そうなれば自分たちで身を守るしかなくなる。


「役にも立たねえ穴だらけのフィットスキン着て、カメラ前でウインクの一つでもしてやりゃ終わりだ」

 笑いを堪えながら揶揄される。

「セクハラで訴えてやる」

「半分冗談だがよ、ねえ話じゃねえ。決勝でぶっ倒したステファニーはやってんじゃん。俺には好きでやってるようには見えねえぜ」

「……うう、確かに」

 ビビアンも思うところがある様子。

「戦ってみてわかっちゃった。あの人、ほんとにアームドスキンに乗るの好きなんだ。バトって勝つのも好き。モデルやってるのは人気のためなんだって」

「そうか。女性パイロットは大変なんだな」

「でしょ、グレイ? あんたたちも試合前コントくらい我慢すれば?」

 痛いところを指摘されて耳が寝ている。


 ウルジーはなぜかポーズを取ってウインクの練習をしていた。どこかズレたところのある彼女は満更でもないらしい。ただしウインクが両目になっていて笑いを誘う。


「俺たちは学生だからダイレクトに生活に関わってくるわけじゃねえ。でも、クロスファイトで食ってる大人は大なり小なり苦労してるってわけだ」

 ミュッセルも苦笑いになる。

「大きなお金が動く仕事だしね。有名になれば人も寄ってくるし、周囲に気を付けなきゃいけなくなる。そのための経費もばかにならないと」

「そんな感じね。ワークスチームになれたのは幸運かも。気配りできる大人に守ってもらえるもん」

「サリの言うとおりだわ」

 努力の成果がそこにも表れる。

「その分、悪い大人も近づいてくるかもだけど」

「ミンったら」

「餌付けされないでね、リィ?」


 無心にカロリー摂取に励んでいるメンバーを気遣う。立った三角耳が疑問符を浮かべていた。


「とりあえず賞金はいつもみたいにプールにまわしたけど。今回は額が桁違いでちょっと怖かった」

 担当のサリエリも困り眉。

「それでいいわ。プール枠のことはまたヴィアさん含めて相談しましょ」

「賞金入ったもんな」

「あんたんとこもじゃない」

 ツインブレイカーズにも碧星杯の賞金が振り込まれているはず。

「グレイと山分けしてマシュリに渡した」

「それなんだよな」

「どうした。計算合うだろ?」


 狼頭の少年は微妙な面持ちである。マシュリも「なにか不審な点が?」と問い質していた。


「いや、こんな額のお金なんて扱ったことなくてさ、どうしたもんかなって」

 大きなトーナメントだけあって女王杯より賞金は高い。

「そっちか。なんならマシュリに任すか? じゃねえ、来週末にはお袋さん来るんだから相談しろ」

「そうだった。母なら大きなお金の扱いは慣れてる」

「ちょ、ちょっと待って!」

 ビビアンが大きな声を出す。

「お母様来るの?」

「ああ、家族がやってくる」

「グレイのお母様って、あの『銀河の至宝』でしょ? こんなあばら屋に来ちゃうわけ?」

「誰ん家があばら屋だよ!」


(あ、そうだ。グレイってホールデン博士の息子さんだった)

 思いだした。

(お父様もあの『ザザの狼』だもの。もしかしたらお祖母様が対応するような方たちになるかも)


 どういった訪問形式になるのかわからない。しかし一般人扱いはできないはずだ。確認が必要かと思う。


 エナミは騒いでいる他のメンバーよりは冷静でいられた。

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