トレンドリーダー(2)

「ところで、ドローンの件どうすんの?」

 レイミンが訊いている。

「ドローン?」

「索敵ドローンの話。コマンダー以外にも許可出たでしょ」

「そんなんあったのか、マシュリ?」

 ミュッセルはキョトンとしている。

「公式アナウンスが出ております。これまではコマンダー配置時は二基までの索敵ドローンの使用が許されていましたが、適用拡大してチームあたり二基までが許可されました。興味ないかと思いまして」

「おう、ねえな」

「ツインブレイカーズなら一人一基使えるのに?」


 コマンダーが配置されているタクティカルチームが用いる索敵ドローン。これまでは数を制限していただけなのがあまりにも大きく作用しはじめてきたため、適用範囲を拡大する対応をルール制定したという。


「チームによるけど、普通に考えると砲撃手ガンナーが使うようになるんじゃない?」

 レイミンが予想する。

「え? コマンダーの配置が増える方向に進むと思うけど」

「そんな余裕があるチーム少ないでしょ。素人を一から鍛えるくらいなら砲撃手ガンナーが指揮権持ったほうが早いし」

「そう? 負荷多くなると失敗しそうな気がする」


 砲撃手ガンナー二人が議論になる。掛かる負荷を知っているからこそ、それぞれに思うところがあるのだろう。


「まあまあ。うちはエナミにお任せでいいんだし」

 ビビアンが執り成す。

「そうね。フラワーダンスの戦略性が運営を動かしたんだって言われるのは鼻が高いかな」

「そうそう。エナミのお陰」

「そんな、私が?」

 急にお鉢がまわってきて戸惑う。

「明らかにトレンド作ったでしょ? 低迷チームがいきなり覇権チームに格上げ。アームドスキンの性能も大きいけど、戦術立案と指揮能力も大きく影響するってどこも考える」

「急造へっぽこコマンダー連れてきてくれるなら、うちは楽勝だけどさー」

「こら、皮算用しないの、ミン」


 マシュリ調べで、かなりの要望が上がったので運営が対応したのだと判明した。しかし操作法に関してはまだ未知数である。σシグマ・ルーン操作をするにもパイロットの負荷は増える。


「泣きながら操作訓練した甲斐があったね、エナ」

「泣くでしょ。私、みんなと違ってσ・ルーンにさえ慣れてなかったんだもの」

「はいはい、いい子いい子」


 宥められる。頬を膨らませているとミュッセルまで頭を撫でてくれた。


「使わないの?」

 上目遣いで見る。

「使わねえな。俺たちのシステムリンク密度は他のチームどころじゃねえ。お互いが索敵ドローンみてえなもんなんだよ」

「それ以上は負荷が増えて集中が乱されるだけだな。狙撃が通用せず、こっちからの狙撃もないなら相手の位置把握は後回しでいい」

「どこまでもパイロットスキルで押し切るのね」

 彼女の出番はない。

「そういや、もう一個爆笑トレンドがあんだろ?」

「あるけど。爆笑?」

「見てねえのか?」


 クロスファイト運営が公開している試合ダイジェスト映像をミュッセルが呼びだす。そこにはここ一週間のウイークデー夜帯の試合映像が収められている。


「ショートレンジシューター、量産されてんぜ」

 ビームランチャーをかまえた機体ばかり並んでいるチームが映る。

「こっからが笑える」

「あー……」

「急造もいいとこだからな」


 地面を鳴らして不格好に走るアームドスキン。お世辞にも速いとは言えない。滑るわ転ぶわ衝突するわで混乱している。それがお互いなので収拾がつかない。

 しかも接近しては乱射しまくった挙げ句に流れが切れる。その間に狙撃を受けてポロポロと落ちていく。見ていられないほどの泥仕合になっていた。


「あのねえ、笑えるのはあんたが苦労してないからなの」

 ビビアンは腹に据えかねている。

「地獄の特訓を経験したら、彼らの苦労を笑えないでしょ」

「そっか?」

「気楽に言うな! 懐に飛び込まれて連射で遠ざけようとしたらリミット掛かって、結局一発ノックダウン食らって。そんなのずーっとくり返してたら嫌んなるの。何回も挫折しそうになったんだから」

 エナミはシートで項垂れる彼女を無数と言っていいほど見ていた。

「いいじゃん、ものにしたんだしよ」

「そう、あれはあたしの血と涙と汗の結晶なの。そんな簡単に模倣できるようなものじゃないわ」

「人聞き悪ぃな。誰がお前に血ぃ流させたよ」

「ストレスで胃が血塗れだったの」


 あくまで例え話である。しかし、チームで一番器用だと言われたビビアンが苦心惨憺した結果なのは事実である。合間に皆におだてられて、どうにか立ちあがる光景が何度も展開された。


「涙で枕がグチョグチョになるまで泣いたわ」

 回想している。

「全然上手くいかなくて、それでも真っ当な作戦じゃ勝てる気がしなくて、みんなで勝ちたくて、ホライズンのシートを守りたくて必死に食い下がったの! それを簡単に真似されて堪るもんですかー!」

「汚い、ビビ」

「あ、ごめん」

 口の中身を飛び散らして吠える。

「なんにせよ、当分はこのトレンドは引っ張られんぞ。お前はその槍玉に挙げられる。覚悟しとけよ?」

「マジで?」

「間違いねえ。リングアナの大好物だ。最高の肴として食い散らかされっぞ?」


 ビビアンは青くなって固まっている。メンバーが泡を食って、その口にスイーツを詰め込んだ。それでどうにか溶ける。


(想像できるだけ困りものね)


 エナミもミュッセルの予想が合っていると思ってしまった。

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