碧星杯決勝(2)

 テンパリングスターが入場する。若干浮ついた空気感が否めないのは、いつものリングアナとミュッセルの掛け合いコントが繰り広げられていたから。彼らが姿を見せることで雰囲気が変わる。それは王者リミテッドの風格のお陰だと思いたい。


「続いての入場はチーム『テンパリングスター』! 結成以来、トーナメント通算優勝回数は驚異の九回! クロスファイト四天王の一角が決勝に見参だぁー!」


 純粋なファンから彼らの投票権チケットを買っている観客まで、実に多種多様な歓声が降ってくる。実績に基づくシャワーを浴びながらセンタースペースへと歩を進めた。


(これで気負ってもくれないのだから困るね)


 ツインブレイカーズの二機は泰然と待っている。紹介コールセンテンスに反応もせず、ただメンバーの様子をうかがっていた。チーム回線でどこから崩すか相談でもしているか。


「再会にはおあつらえ向きの舞台だね」

 挨拶代わりに声掛けする。

「おう、ちょっかい掛けてくれた礼がまだだったな。利子付けて返してやんぜ」

「そんなふうに言わないでくれ。君たちはどんな目で見られているかもっと意識すべきだ」

「わかってるって。邪魔くさくてしょうがねえんだろ? でもよ、まとめて掛かってこいってわけにいかねえじゃん。順に潰しにいってやる」

 威嚇してくる。

「物騒だな。恨みを買わない程度にしておくんだね」

「そいつは無理な相談じゃね? だって運営が紅の破壊者とか煽ってくんだぜ?」

「あー、否めないね」


 オープン回線での観客へのリップサービスはこのくらいで十分だろう。一拍置いて様子をうかがう。


「なぜか悪者にされたぞぉー! これ以上は遠慮してもらいたいので始めてもらいましょう!」

 フレディの軽口も冴えている。

「ゴースタンバイ? エントリ! ファイト!」


 ゴングと同時に左に避けて砲撃手ガンナーが弾幕を浴びせる。二人も向かって左に避けたので反対側にまわる格好になった。


「押せ」

「了解」


 そのままツインブレイカーズを狙わせる。交互に連射してビームインターバルを潰し、弾幕が途切れないようにする。障害物スティープルの影へと押し込めた。

 フェチネのアームドスキン『フィックノス』を従えてまわり込む。挟撃体制を作ろうとしているかのように見せた。それは逆に隙に見えるだろう。


(やはりね)


 先にヴァンダラムが動く。弾幕をものともせず走りだした真紅のアームドスキンは直撃弾を腕で弾き飛ばしながら砲撃手ガンナー集団に接近を掛ける。レギ・クロウもビームが薄くなった時点で飛びだす気配を見せた。


(そうはいかない)


「退け」

「下がれ」

 ワイズが中継して周知する。


 接近を許すまじと後退する砲撃手ガンナーのフィックノス三機。ビームの狙いが甘くなったところでレギ・クロウも動きだす。それでレングレン含む二機、レギ・クロウ、ヴァンダラム、砲撃手ガンナー集団という引き伸ばされたラインができた。


「右展開」


 砲撃手ガンナーが右にずれながらヴァンダラムに狙いを絞る。それに合わせるようにレギ・クロウがまわり込もうと動きだした。

 ワイズ以下の狙いが変わる。ミュッセルの足元を掃射するように照準を変え走ってこられないようにする。距離が空いたところで照準をレギ・クロウに。


「行くぞ」

「あいよ」


 レングレンはフェチネ機を伴って走りだす。たたらを踏んでいるヴァンダラムにブレードをかまえて仕掛けた。

 当然の如く察知したミュッセルが正面を向いてくる。しかし二人は踏み込まずに一足一刀の間合いで止まった。


「なんのつもりだ?」

「君の担当が私たちというだけだよ」


 ヴァンダラムがちらりとうかがう。レギ・クロウが砲撃手ガンナー三機の弾幕に押されてスティープルの林に下がっていくところ。そのまま押していってくれるだろう。


「グレイから始末する気か?」

「いや、遠間合いでは無理だね。ブレードでガードするあの技を抜くには接近しなくてはならない」

 包囲しても同じ結果。

「面白えこと言うじゃねえか。つまりは俺から落とすって意味だぜ?」

「正解だよ」

「ひゃっはっはぁー!」


 ミュッセルは哄笑する。実に楽しげな笑い方であった。心底バトルを満喫しているかのようだ。


「いいぜいいぜ! そんくれえでねえとリミテッドなんてやってらんねえよな! やってみせろ!」

「やっぱり、こいつ、おかしいよ」

「黙らせればいい。その自信、打ち破ってみせよう」


 予定どおりヒット&アウェイで詰めていく。二人の連撃でスティープル群の中へと押していった。程よいところでフェチネに合図を送る。彼女は反対側に移動した。

 手段は変わらない。いつもよりワンステップ外側から斬撃を放つ。届いたとしても剣先だけだが、当たればダメージ判定されるので受けざるを得ない。両側から攻め立てて集中力を削いでいく。


「なるほどな。しかし、こいつは塩っぱくねえか?」

「それは効果的と受け取っていいのかね?」

「どうせ強がりさ! この状態になったら決まりなんだよ!」


(これでいい。続けていればもたなくなる)

 狙いどおりの状況に持っていけた。


「はん、それでいいのかよ」

「なに?」


 ミュッセルの放った言葉にレングレンの中で再び不安感が首をもたげた。

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