碧星杯決勝(1)

「さぁて、腹もこなれた頃合いだ。一発かましてくんぜ」

「ようやく決勝か。ここまで長かった気がする。でも、よく考えたら碧星杯はツインブレイカーズで初参戦のトーナメントだった」


 グレオヌスはとぼけたことを言う。だがミュッセルも実感していないのは同類だった。オーバーノービストーナメントは期間が長い。準決勝以上となると週末開催にする所為もあるが一ヶ月近くを費やしている。


「ソロと違って試合時間も長いし人気もあるかんな、運営も引っ張る」

 内部事情もある。

「失敗したな。その間一回も賞金入れていないぞ。チュニさんに申し訳ないことをした」

「金華杯の賞金、かなり渡したろ? あれでお前の食い扶持とエネルギー費くれえは賄って釣りがくんぜ。それに優勝したらすげえぞ? チーム戦は賞金もソロの比じゃねえ」

「それなら喜ばせてあげられそうだ」

 この親友はあいかわらず金銭に興味が薄い。

「優勝できる気でいるの?」

「勝つ。それ意外考えてねえぞ」

「ああ、最初から躓いてるようでは組んだ意味もないな」


 自信満々の二人にビビアンはじめフラワーダンスメンバーは鼻白んでいる。そもそもチーム戦トーナメントの決勝に二機で挑むのなど無謀だと思っているか。


「ま、なんか、あんたたちならやっちゃいそうな気もする」

「うん、頑張って」

 エナミも応援してくれる。

「ここで負けるようならコマンダー就任もあっかもな」

「じゃ、負けてもいい」

「いや、応援しろよ」

 軽口とハイタッチを交わす。

「優勝したら、俺のリフトバイクをカスタマイズすっか。がっつり手ぇ入れて新しくできっとこは新しく、なんだったら新調すっかな」

「パワーアップか。それもいいな」

「それなんですけど」


 ラヴィアーナが口を挟んでくる。視察者の存在を気にしながらではあるが。


「協力いただいた対価をお払いしたいのですけど、未成年に通貨トレドでというのは品がないので他になにかをと考えていたのですが」

 提案してくる。

「お二人は我が社のリフトバイクを愛用していただいているそうなので、でき得るかぎりのカスタマイズを提供したいと思っています。いかがです?」

「ただでやってくれんのか?」

「そうなのですか。では、そのように取り計らって差しあげて」

 マリラが保証してくれる。

「やったぜ。俄然やる気になってきた」

「賞金関係なくなったのにかい?」

「いい気分でニューマシンに乗りてえだろ?」


 グレオヌスも納得して口端を上げる。楽しみが多いのはいい。


「んじゃ、リングを温めておいてやる。そこで見てろ」

「あんまり荒らすのはやめてね。走りにくくなっちゃう」

「荒れれば荒れるほど有利になんだろ。ホライズンってのはそういうアームドスキンだ」


 言い残してミュッセルはヘルメットを被った。


   ◇      ◇      ◇


「入場が始まった」

 レングレンは投影パネルに目を向ける。


 サウスサイドから照明の下に姿を現す赤とグレーのアームドスキン。挑戦者サイドとは思えない風格さえ漂わせている。


「碧星杯決勝に前代未聞のノービス1チームがきたぁー! おなじみ『ツインブレイカーズ』、満を持しての登場だぁー!」

 リングアナのフレディが騒ぎ立てる。


 特に緊張感は見えてこない。むしろ闘志に満ちているように感じる。経験的にこういうチームは厄介な敵になる。


「工夫をしている感じはない。しかし、この二人はまだ未知数だ」

 彼にも底は見えない。

「パイロットスキルだけで押し切るかと思えば、巧妙な連携も見せてくる。困ったことに読めない」

「わかるよ、レン。でも所詮は二機でしかないじゃん。油断なく作戦を講じれば避けるのは難しい。そうじゃない?」

「そうだね、フェチネ。ただ相手だってそれがわからないほど馬鹿でもない。ミュウ君などはソロでは古株だ。様々な手管をくぐり抜けてきている」

 不安な点は消し切れていない。

「そいつは下の連中の苦し紛れの策だろ、大将? うちはなんだ? 天下のレッチモン社が誇るトップチーム『テンパリングスター』だ。作戦遂行力は比べるまでもないだろ」

「ワイズが言わんとしているところもわからなくはないのだがね、不気味でしょうがない。考えてしまうのは私の悪い癖だね」

「大船に乗った気でいてくれ。作戦どおりヴァンダラムとレギ・クロウを分断できればその時点で勝負ありだ」


 メンバーは打ち合わせどおりに動いてくれるだろう。そこに不安はない。ただ少年二人の握っている手札が何枚あるのかもわからないところが怖ろしいだけである。


(何枚持っていようとも手札を使えない状況を作るのが基本だ。そのために作戦を立案した。前提を信じなければ意味がない。皆に不安なイメージを与えるわけにもいくまい)


「では、対レギ・クロウの砲撃手ガンナーの指揮はゼド、君に任せる。決して無理をせず、ヴァンダラムを落とすまでもたせてくれ」

「了解だ。心配はいらない」

「フェチネ、君は私と一緒に対ヴァンダラム戦をやる。時間を掛けてもいい。作戦どおりミュウ君を弱らせてから確実に落とす」

「任せな。チーム戦で奴に土を付けるのはうちが最初になるよ」


 自信を漲らせるメンバーを従えてレングレンはカウントがゼロになっているゲートをくぐった。

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