同族嫌悪?(2)

 開始のゴングと同時にサリエリとレイミンはジャンプしてゲージいっぱいの連射で牽制する。その間に前衛トップ三人はホライズンを障害物スティープルの影へと入れた。


「こういうチームとオープンスペースでやり合うのは愚だからな」

「そのへんはエナがきっちり誘導すんだろ。ただし連中にも結構優秀なコマンダーが付いてやがる」

 グレオヌスが言うのは事実だが優位に働くとは限らないとミュッセルは教えた。

「うん? 相手のリーダーが君が言うような性格ならコマンダーの指示になんか従わないんじゃないか?」

「ああ、従わねえ。与えんのは位置とかの情報だけだと思う。だがよ、情報の取捨選択で戦列ラインが動かせんのも事実だろ?」

「そういう意味で優秀なコマンダーか。なるほどな」


 リングのような視界が悪い状態でなら可能な手法だ。敵の情報を伝える、あるいは伝えない。嘘を教える。様々な方法で戦力を動かすことができる。


「コマンダーはチーム回線で情報を伝える。どんな伝え方をしてるかなんて本人のみぞ知るだな」

 表に出てこない。

「小細工をしてるとしか思えねえ動きをすんだ。それで勝ちを拾いに来る。そうすっと優秀なのは誰だ?」

「コマンダーだな。タイプも色々か。普通指示を無視するようなら共に戦えないと考えるだろうに、ずいぶんと寛容な人物だ」

「裏方の努力の結晶さ。だがな、ほんとに怖いのはエナみてえなパイロットと一体になって戦うタイプなのは間違いねえぜ」


 林立するスティープルをするすると縫っていくホライズン。その動きに一つの遅滞もない。敵にするなら寒気を覚えそうなほどだ。

 それはここ一週間でエナミが把握した機体特性とパイロットが身に備えた完熟度の結晶である。培われた絆はチームをより強くしていた。


(だが、まだパイロットスキルじゃ負けてっかもしんねえな)


 オッチーノ・アバランがAAAトリプルエースチームとしてクロスファイトに居続けられる理由。それは中心にいるエレインがただ乱暴なだけでなく優れた体感覚の持ち主だからである。


「逃げな逃げな。それでこそ楽しい狩りの時間になるね」

 エレインが不穏なセリフを吐きつつ突っ込んでいく。


 上からと、スティープルの間隙を縫うビームがエレイン機の足元を脅かす。撃墜ノック判定ダウンは奪えないが、足留めをするには有効な手段だ。


「上手だね。これがフラワーダンスの強みだ」

「それぞれが役目を確実にやる。チームで勝つことは前からわかってっからな」


 エレインが突出してメンバーと衝突するのをエナミが嫌ったのだろう。徹底的に足留めに専念させ、他の剣士フェンサーが先行する形を作ろうとしている。


「まだるっこしい! イライラさせんじゃない!」

 吠えているが付き合う義理はない。


 サリエリたちにエレインの足留めと監視を任せたチームは剣士フェンサーの攻略に掛かる。あぶり出しに動いた機体はそれぞれに索敵に向かうがバラバラである。ワンマンチームに有りがちな組織力のなさを露呈した。

 コマンダーも両砲撃手ガンナーの位置割出しにドローンを割いて目が向いていない。その間にフェンサーを落としにビビアンたちが走る。


「エナも策士だぜ。サリとミンの射線を囮にルート限定をしてるだろ?」

「本当だ。攻める手とまわり込む手に分かれているけどルートが見えてれば……」

「罠に掛かる」


 顔面を襲うスティックを腕で防ぐが勢いを殺せず転びかける。そこへ走り込んだビビアンが連撃を放てば体勢を立て直す暇もない。

 胸を打たれて完全に転倒したところで剣閃が走る。受けきれずに腕を薙がれて機能停止。ほぼ無力化したところへ最後の一突きが決まった。


「大したもんじゃないか」

 休憩に入っていた父のダナスルも観戦している。

「一つ落ちたろ? これで流れが変わる」

「有利になるのか?」

「そう簡単じゃねえが、生まれた焦りが足を早める。余計に散ったんじゃね?」

 砲撃手ガンナー撃墜を焦って行動に乱れが出た。

「こうなるとリィが動きやすくなるな」

「おう、暴れだすぜ」

「あの猫娘か」


 黄色ストライプのホライズンが飛びだした。ほぼ勢いのままに斬りつけているが、特訓のお陰で一撃の正確さが増している。剣士フェンサーの腕が良いほど、受け損ねれば致命傷となると感じられ慎重になる。


「足が止まったら詰みだ」

「近い分だけな」

「なるほど、そういうことか」


 予想していたかの如きサリエリの狙撃が直撃した。反動で転倒したアームドスキンには目もくれずユーリィ機は次の目標へ。

 ビビアンも剣士フェンサーの監視にドローンを振り分けたエナミの誘導で駆けつける。背中合わせに陣取った二機を三機で取り囲んだ。


「こうなったら時間を掛けていい」

 グレオヌスは半ば勝敗は決したと言わんばかりだ。

「一番油断する瞬間だが、こいつらならもう心配ねえな」

「ずいぶんと集中して練習していたな」

「すまん。全然手伝えなかった」

 工場のほうが疎かになっていた。

「かまわんさ。それほど立て込んでなかった。じきに上半期の締めだ。今はほとんどの機械が現場で活躍してなきゃならん」

「飛び込みの厄介な修理が入ってくる時期じゃん」

「それだってぽつりぽつりだ。一斉点検みたいな手の掛かる仕事じゃない」


 比較的閑散としているメンテスペースを見る。このあとはヴァンダラムとレギ・クロウをリフトトレーラーに乗せるだけ。そうするとほぼ空っぽになってしまう。


 ミュッセルは碧星杯の賞金で両親を旅行にでも行かせるかと考えていた。

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