同族嫌悪?(3)
大きく躱すスペースを失えば、襲いくるスティックを腕で捌くしかなくなる。不慣れな防御を強いられた
(腕は悪くねえくせによぉ)
試合を映す投影パネルを観ながら、判断力に劣るとミュッセルは思う。
「往生するにゃー!」
ユーリィが渾身の一撃を放つ。
「こうも違うわけ?」
「まるで人が変わったみたいに」
オッチーノ・アバランのパイロットは困惑している。つまづいたとは思っていても、差を付けられたとは思っていないかったらしい。
「対戦成績七勝二敗の相手に手玉に取られるとは思ってなかったんだろうぜ」
油断が今の状況を作っている。
「もう少し慎重に進めていれば相手のコマンダーも腕の見せ所があったはずなんだけどさ」
「なんか、勢いがあるっていうか乗っている感じだねぇ、ビビちゃんたちは」
「ふむ、流れが切れないか」
両親にも試合の動静が見えてきている。
ビビアンが脚を裂きながら走り抜ける。膝立ちになった機体をウルジーが突き倒し、ユーリィの一薙ぎで
もう一機がフォローに入ろうとする出足を突きビビアンの一閃が走った。まともに胴を舐めた力場刃がセンサーを叩いて強制停止させる。
「間に合ったじゃん」
「っと、これは手を付けられないか」
エレインがリフレクタを立てて強引に突進。足元を払う弾幕をものともせず、転がりながら近づいてきた。
「好き放題やってんじゃないよ!」
猛然と迫る。
「手遅れだわ。ギブアップしなさい」
「するもんか! あたしはまだ
「一機だけでどうするっての!」
あまりの勢いに
「ここから逆転してやるさ! 先週、あの悪魔がやってくれたばかりだしね!」
エレインは豪語している。
「あんたなんかにミュウの真似ができるわけない」
「あれにできて、あたしができないなんてないじゃないか!」
「知らないからよ。毎日痣だらけになるほど道場で特訓したり、肌に油の匂いが染み付くほど必死に自分のアームドスキンを整備したことある? あんたには真似できないわ」
リフレクタをブレードで叩きながらビビアンが説き伏せる。それはエレイン機を留めるほどの気迫に満ちていた。
「そういうのやめろよ。恥ずかしいじゃねえか」
ミュッセルは身の置き場に困る。
「見てる子は見てくれてるんだよ。ありがたく受け取りな」
「あとで礼言っとくんだぞ?」
「親父まで! そんなん顔が火ぃ噴くぜ」
いたたまれない。
「僕がそれとなく言っておくさ」
「余計なことすんじゃねえ!」
戦況は変わっている。
「いい加減にしなよ! あたしを怒らせたら!」
「で?」
口数少ないウルジーは静かに攻め続ける。言葉は発さなくともスティックは雄弁であった。怒っているのか、脇、腰、横面と強かに打ってよろめかせる。
ユーリィの突きが左肩を貫き、腕がぶらりと下がる。ビビアンの上段からの一閃が右上腕を薙いだ。それでも動かない腕を胴体だけで振りまわしながら抵抗する。
「なんて強情な!」
「まだだ! まだ足があ、がぷっ!」
正面からスティックが顔面に突き刺さった。衝撃に舌を噛んだような台詞が続き、急に固まった。両サイドから
「ノックダウぅーン! 勝者、チーム『フラワーダンス』! 女王杯・虹、決勝進出だぁー!」
アナウンスにアリーナが湧いている。元々あった人気が沸騰してきているようだ。観客を味方につけると大きい。
「いよいよ明日か。今日も無傷でクリアできたし順調かな?」
グレオヌスは安堵の息を吐いている。
「なんとも言えねえ。このあとのメインゲームの結果次第だがよ」
「強いとこがあるのかい?」
「そうなんだ、お袋。順当に行けばチーム『デオ・ガイステ』が上がってくる。フラワーダンスはここと五戦して一回も勝ったことがねえ」
女子最強のチームがやってくるだろう。
「そんなに強いとこがあるんだね」
「アームドスキン大手、ガイステニア社の女性向け調整ワークスチームなんだよ。カスタマー向けに提供する資料をこいつらのデータで作ってる。そんくらいのことができる企業力があるかんな」
「男性向け女性向けに分けてデータ採取してるのか。それならパイロットも粒を揃えてるだろうな」
グレオヌスも納得する。
かなり羽振りもいいし人気もある。リーダーのステファニー・ルニエなどはモデルページにも顔を出すほどの美形でもあった。ファンクラブが存在するほどクロスファイト切っての人気チームである。
「一番の難関だといえるな」
「俺だってデオ・ガイステの奴らがいなきゃビビたちの好きにさせてたぜ。ここを抜くとなると生半可じゃねえ」
「そうか。本当の運命は明日やってくるのか」
ミュッセルは自分の碧星杯決勝と変わらないくらいに危惧していた。
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