同族嫌悪?(1)

 トリアの日がやってきた。明日は碧星杯決勝があるのでミュッセルとグレオヌスは午前中からクロスファイトドームで拘束される。最終調整ができるのは今日だけなので呑気にアリーナに行っている場合ではない。


「ま。試合くれえは見とくがよ」

「気になってるくせに」

 狼の目が呆れ気味に細められる。


 だいたいの調整を終えているのは事実だ。試合前に終わらせようと集中したのも。もちろん手抜かりの無いよう時間に余裕を持たせていた。なにか問題が発生すれば今日のうちに片づけられるように。


「ビビちゃんたちはこれからかい?」

 母のチュニセルがお茶を持ってきてくれる。

「おう、もうちょいってとこか」

「勝てるといいねぇ」

「でき得るかぎりの準備はしたつもりです」

 カップを受け取りながらグレオヌスは言う。

「ずいぶんと頑張っていたから祈っておこうかね」

「ま、色々重なることもあっからな。良いも悪いも」

「本来の実力が出せれば問題ないでしょう」


 珍しくマシュリが口を挟んでくる。彼女にしては妙に協力的だったのも初めてのこと。なにか裏の繋がりがあるのはわかっていても、らしくないといえばらしくない。


「お前でも妹は可愛いのかよ?」

「不出来なほどに」

 皮肉はいつもどおりだ。


 リングの簡易整備が終わってフラワーダンスが入場してくる。足運びに迷いはない。十分に気持ちも作れているとみえる。


「相手は?」

 相棒はまだ入場していない相手チームが気になるようだ。

「なんというか、面倒な連中だ」

「へぇ?」

「チーム『オッチーノ・アバラン』。アバラン社のワークスチームだがよ、こいつらほんとにワークスかって疑いたくなんぜ」

 異色なチームである。

「出てきた。うん?」

「見てのとおり、超攻撃型だ」

剣士フェンサーが四人? 真ん中は……、もしかして格闘士ストラグルタイプなのか?」


 入場した五機は一機たりとてビームランチャーを持っていない。両サイドに分かれた四機は右手、あるいは両手にブレードグリップをかまえている。ただし、中央の一機だけは完全に無手だった。


「アバラン社が近接格闘に力を入れた開発をしているのもそうだろうし、場数こなすのに女ばかり集めたチーム組んで人気取りに走ったのもわかる。しっかし、この女はよ」

 親指でセンターのアームドスキンを指す。

「ただの狂犬だ。あたりかまわず殴り掛かってぶっ壊してく。頭のネジがまとめて十個はぶっ飛んでんぜ」

「あ、ああ……」

「チームはこいつのワンマンだ。剣士フェンサー四機を手下みてえに扱って自分の前に敵を引っ張りだす。あとは殴り放題だ」

 彼らの手口である。

「かなり無茶に聞こえるがそれで勝てるのかい?」

「タチの悪ぃことに剣士フェンサーどもも結構腕が立つ。見てらんねえぜ」

「妙に詳しいじゃないか」


 確かにこれまではカテゴリが違ったので対戦することはなかった。ただし、質が質だけに比較されることも少なくなく、嫌でも耳に入ってきたのだ。


「それは同族嫌悪ってやつじゃないかな?」

「あんだって?」

 聞き捨てならない。

「お前、あいつらと俺を一緒にする気かよ?」

「いやそう言われても、このチームを知らないからさ。どのくらい似てるのかも想像つかないよ」

「見りゃわかる。無茶苦茶だぜ」


 胡乱な視線を向けられる。まるで無茶苦茶は同じだといわんばかりに。計画性がないと思われるのは心外である。ミュッセルとてグレオヌスのような相棒を見つけられなければチーム戦に乱入するなどという望みを実行に移すことはなかった。


「やりたい放題やってくれてんじゃないのさ!」

 拳を打ち鳴らしつつ吠えている。

「嬉しいよ。たまには歯応えのある肉に噛みつかなきゃ牙が鈍っちまうからね」


 心底楽しそうな口調で挑発している。これからバトルというよりは狩りの時間と思っているような口振りであった。


「な?」

「あー」

 歯切れが悪い。

「このエレイン・クシュナギって女はリング向きじゃねえ。なのに、なんでこんなとこにいるのかって言ったら軍って組織もこいつを受け入れられなかったからだ」

「それはよくわかる。よほど上官に恵まれなかったら難しいだろうな」

「そこを利用したのがアバラン社ってこった。好きに暴れさせときゃデータだけは手に入る。機体を壊すってデメリットもあるが、そこは必要コストと割り切ったんだろうぜ」

 整備士メカニックの苦労はしのばれるが。

「聞くかぎりだと弱くはなさそうなんだけど、AAAトリプルエースクラスなのはなんでなのかな?」

「負けるときはコロッと負けんだよ。要は気分屋なのさ。エレインの気が乗らないときはチーム全体がバラバラになっちまう」

「今日がそういうタイミングだと楽勝なんだがな」


 拳をガッツンガッツンと打ち合わせるのをやめない。変な期待は持たないほうがいいと目で促す。


「うん、無理そうだな。ノリノリって感じだ」

 さすがにグレオヌスもあきらめる。

「厄介なのは、相手が調子に乗ってるときほど燃えるタイプなとこだ。今日なんてベストコンディションで当たってくるな、間違いなく」

「うーん、明日が決勝なんだから今日機体を壊すのは避けたい。それは相手チームにもいえるはずだろう?」

「そんな計算ができるほど頭が良くない。なかなかポイントが貯まらないのはその所為もあるな」


 ミュッセルは改めて気づいた。

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