成果を魅せる(2)

 バックステップしつつプレート型スティープルの角に左手を引っ掛けた。ビビアンがホライズンを裏側にまわり込ませたところでビームが鋼材を叩く。

 チーム『ハイドレル』の剣士フェンサーが手だけで裏側を突いてきたのをかがんで躱し、ひるがえった切っ先が下から跳ねてくるのも鼻先50cmで避ける。


「これでもなの?」


 驚く相手の流れたブレードを弾いて機体を泳がせる。バランスを取ろうとする足をつま先で払って転倒させた。レイミンの狙撃が直撃して撃墜ノック判定ダウンを奪う。


「遅い?」

「ビビがあの二人のスピードに慣れすぎたの!」


 一瞬の撃墜劇に戸惑う。彼女の行動は陽動であり、牽制のつもりで入れたアクションでノックダウンまで奪ってしまった。

 迷っている暇もなく再び右回りに走りはじめる。敵の砲撃手ガンナーはフラワーダンスのスピードに追いつけず置いていかれ気味。残りの剣士フェンサー二機が突出してきている。


「やるにー!」

「げぇっ!」


 追ってきたところへ横ざまから黄色ストライプのホライズンが現れる。傾けて曲がる機体の肩がポールをかすめて火花を散らすほどの速さで。地を這わせて跳ねた刃が胴体を捉えて振り抜かれる。また一機膝から崩れた。


「もう一つ」

「こっち」


 回転するスティックに防戦一方になっている剣士フェンサー。手首を叩いてブレードグリップを叩き落とし鳩尾を先が強打する。頭部をビームが舐めたのを見て、そのまま背後のアングルに叩きつけた。手がぶらりと垂れ、バイタルロストが宣言される。


「まばたきする間に三機が落ちたぁー! フラワーダンス、強いー!」


 頷き合って反転攻勢に出る。サリエリとレイミンがついてきているのを確認して前衛トップ三機は肩を並べて走る。スティープルを縫いながらも速度は変わらない。


「なんてスピード。これがあのフラワーダンス?」

「下がってゲリラ戦。それしかない」

「させるもんですか」


 土を蹴立てて迫る。牽制の連射も挟んでくるがステップで回避。敵に張り付いたエナミのドローンが正確な位置を伝えてくる。スティープルを避けビームを回避するのに専念できる。


「つーかまーえたに!」

 ユーリィがいち早く走り込む。

「避け!」

「甘い」

「なに!?」


 滑り込んだビビアン機がバックステップする場所に足を入れている。もろに真後ろに転倒するアームドスキン。ユーリィ機が軽くブレードを当てるだけで撃墜ノック判定ダウン状態にした。


「これほど!」

「ぬるいわよ」

「お終い」


 リフレクタで狙撃を弾くのが限界の砲撃手ガンナーにウルジーが急接近。ビームランチャーを叩き落とし、そのままの勢いで回転して反対の先が肩口を打った。横倒しになったところへビームが集中して落ちる。


撃墜ノック判定ダウン! ハイドレル全滅で勝利したのはチーム『フラワーダぁーンス』っ! 電撃的な攻撃でAAAトリプルエースチームを粉砕ぃー!」


 試合時間は三分十二秒。チーム戦としては比較的短いほうだ。なにより全員のパイロットスキル向上が明確に表れた一戦だった。

 センタースペースに出てリングのカメラドローンに囲まれる。観客に向けて勝利の拳を掲げた。防御フィールドが晴れたアリーナから称賛が降り注いでくる。


(一時はかなり凹まされたけど、確実にホライズンを掴んできてる。逆に自信湧いてきた)


 方法論としては間違っていなかったとビビアンは実感した。


   ◇      ◇      ◇


「異常な機動性だ……」

「まるで別物。ヘーゲルはなんてアームドスキンを……」


 エンジニアルームのスカウトたちを絶句させる。エナミは非常に気持ちが良かった。メンバーを勝ち誇りたい気分だが、それをしない節度はある。


「思わせておきましょう」

 ラヴィアーナが声をひそめて伝えてくる。

「私たちスタッフはあなた方の努力を認めています。それで納得してくださらない?」

「もちろんかまいません。みんなを直接称えてあげてください」

「いいえ、あなたの努力も心得ていますわ。お見事な指揮でした」

 欲しい言葉ももらえる。

「えへ、ちょっと頑張りました」

「見違えるような視界の良さだったよ。リングカメラと合わせなくても大体の動きは捉えてたんじゃないかな」

「帰って解析しましょう。こんなに仕事が楽しいのはいつぶりかしら?」


 ラヴィアーナもジアーノも極めて上機嫌である。彼らをそうさせるだけの勝ち方だった。


「身体も休めてくださいね? 私たちの本当の正念場は週末なのです。その前に力尽きては困ります」

 笑いながら告げる。

「わかってるさ。こうなったら這ってでもホライズンを万全に仕上げてみせる」

「最後の詰め、気を引き締めていきましょう」

「はい」


 コマンダー卓のデータを全部抜いて初期化したら、周囲に一礼してエンジニアルームをあとにする。自然と背筋が伸びた。


「おめでとう」

「ありがとー!」


 ノースサイドの待機エリアでは、リフトトレーラーにホライズンを寝かせたメンバーがスタッフと握手している。主任たちとも挨拶を交わしたのを見計らって駆け寄りハグをした。


「危なげなかった」

「うん、びっくりするほどハマってた。なんか怖い」

 幸運が不運を呼ぶかと懸念しているのだろう。

「ううん、みんなの実力」

「そうよね」

「マシュリさんも褒めてくれるんじゃない?」


 失言だったらしく全員の目が光を失う。ふるふると震えて視線を泳がせた。


「そうよねー」

「そのはずにー」


 トラウマを抱えた女子たちにエナミは顔を覆ってため息をついた。

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