成果を魅せる(1)

 またたく間にカンスの日がやってくる。メンバー全員でクロスファイトドームに向かっていると「頑張れ!」と声を掛けられた。手を振りながら選手入口にスツールリフトを向ける。ホライズンはヘーゲルスタッフが搬入してくれている。


「あれだけ特訓したんだから、あたしたちは大丈夫」

 公務官オフィサーズ学校スクールの制服をフィットスキンに着替えながら自分にも言い聞かせる。

「ミュウたちだってほんとは自機の調整あるのに付き合ってくれたんだし」

「報いなきゃね」

「いけるにー!」

「勝つ」


 待機エリアに駆けていってスタッフにお礼を言う。それぞれに最終調整の内容を聞きながら搭乗しホライズンを起こした。


「家で観戦してるって言ってたから良いとこ見せましょ」

「ラジャ!」


 大型投影パネルに現在行われている試合が映っているが頭には入ってこない。今日自分がどんなふうにホライズンを動かすかだけをイメージトレーニングしている。


 試合が終わってゲートがカウントを始めたのをビビアンは認めた。


   ◇      ◇      ◇


「よろしくお願いします」


 エナミはラヴィアーナやジアーノたちとエンジニアルームに入る。彼らが姿を現すと誰もが注目してきた。少し緊張しつつコマンダー卓に着く。


「解析データ、非常に参考になりましたわ」

 ラヴィアーナは自信ありげに言ってくる。

「マシュリさんにお願いしたものです。勉強させてもらいました」

「ええ、専門メーカーならばノウハウがあるのでしょうが、なにぶんヘーゲルうちは新興ですので助かります」

「本当はぼくが助言できればよかったのでしょうが、エンジニア畑をひた走っていましたんで調整のほうはどうにも素人で」

 ジアーノは苦笑している。


 話している間にフラワーダンスの入場が始まった。防音なのに、上のアリーナから微かに歓声が響いてくる。


「大した人気ですね」

 副主任はほくそ笑む。

「元々人気があったチームで、あの鮮烈デビューを飾らせてもらいましたから。幹部連中、戸惑ってますよ」

「おそらく標準的な仕上がりを見込んでいたのでしょう。数あるメーカーの中に沈んでいく部門だと思われていたはず」

「見返してやりますよ」


 彼らは同道してきたセキュリティスタッフにガードされている。暗黙の了解で直接話し掛けてくることはないにしても安心できた。ただし雑音はすごい。


「どうやってあれだけの機体に仕上げてきた?」

「あのフラワーダンスを口説き落としたとは。上手くやってくれたものだ」


 これ見よがしな嫉妬の台詞も聞こえてくる。羨望を受けるのは慣れているし遠慮したいが、任されている責務がある。集中力に転化する。


「平日なので二試合目ですが、いつもより荒れていますね?」

 ラヴィアーナが言うのはリング内の地面の話だ。

「この前よりはマシだと思います。ミュウが荒らしてしまっていたので」

「ええ、オープンスペースは極力避けましょう。障害物スティープルエリア内のほうがホライズンの性能を如何なく発揮できます」

「賛成です。さて、チーム『ハイドレル』はどう来ますかね?」

 相手チームも入場してきた。

「2トップの標準的チームです。機動性能が上がった分だけ回避性も向上しています。トップから落としていくのも可能かもしれませんが」

「無理なければそれでお願いできます? 差を見せつける戦闘をできると社内に誇示もできますから。もしものときも説得材料になります」

「やってみます。でも、もしものとき、つまり負けることなど考えていませんから」


 エナミは開始のゴングを待ちながら豪語した。


   ◇      ◇      ◇


「ゴースタンバイ? エントリ! ファイト!」


 試合が始まる。ビビアンたちはすぐさまスティープルの林に駆け込んでいき、サリエリだけが鋼材に張り付くようにジャンプをくり返していく。


前衛トップから落とすのね?」

「ええ、そのまま右回りに誘っていきます」

 エナミの指示に従う。

「ハイドレルはカスタマーチームでも大きめのとこ。コマンダーも付いてる。ドローン追ってきてるから動きは漏れてるわ」

「全部じゃない。サリが一匹捕まえておいてくれたら穴ができる」

「任せてっと」

 ビームランチャーを手にスティープルに掴まっている。


 アームドスキンのスペックはともかく、彼らの戦法は知れ渡っている。サリエリの三次元狙撃を警戒して相手コマンダーの目は張り付きになっていた。

 そうすると遊撃しているウルジーまでは監視の目がまわらない。遭遇戦トラップが有効になってくるのだ。


「いつものパターン戦闘をやる。ただし展開スピードはこれまでの二倍、もしかしたらそれ以上になってるから相対位置に注意」

 全員が「ラジャ」と返している。

「ビビ、釣りに行って」

「あたし?」

「ちょっとアレンジ。リィが掻き混ぜに行ったほうが混乱を誘える」

 ペアとしては逆の役割になる。

「はいな。ミン、OK?」

「見えてる」

「よろ!」


 少し速度を落として迎撃に入る。数はエナミが確認してくれているので気にしない。逆回りに挟撃される心配はない。

 スティープルの影に走るアームドスキンがチラチラと見える。レイミンの狙撃がそれとなく背後を狙っていて分断が誘えていた。


「そろそろ」

「どうぞ」


 相対位置表示をチラ見してビビアンはブレードを手に反転した。

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