運命の週末
週末の余波(1)
週明けに登校すれば、昨夜と同じ顔ぶれが集まることになる。飲んで食べた分、少しむくんだ顔を気にする女子と並んで廊下を行く。
「おう、ミュウ」
教師のデネガー・アンクルトンが反対側からやってきた。
「なんだよ、デン?」
「活躍は結構だが勉強にも身を入れろ」
「ぐ、忙しいんだよ」
言い訳を見逃してくれない。
「お前、理系は申し分ないが文系は怪しいぞ。歴史学は際どい」
「筆記問題は苦手なんだから仕方ねえじゃん」
「あと、法学もな」
成績が厳しいところを挙げ連ねられる。即座に落第とまではいくまいが、ボーダーラインをクリアするのが精一杯な科目が幾つかある。
「無理だっつーの! 死ぬほどある附則、全部憶えられっか」
苦言を呈する。
「馬鹿野郎。それでも範囲は司法科のカリキュラムの十分の一なんだぞ?」
「あんな化け物どもと一緒にすんな。どこをどうすりゃ、そんな頭の作りになるってんだ」
「あのなぁ、お前が暗記してる化学式の数だって負けず劣らずじゃないか」
「人には得手不得手ってもんがあんだよ」
理系全般は得意である。むしろ、できないとアームドスキンの調整や修理など不可能だ。マシンは科学の産物なのである。
「頼むから落第してくれるなよ。有名な生徒を指導しきれなかった教師の烙印を受けるのは真っ平御免だ」
上から頭を押さえつけられる。
「てめぇの評価のために勉強してんじゃねえ!」
「そこをなんとか。地方に飛ばされるのは勘弁な」
「嫁さん泣かしたくなかったら、俺にも優しい授業をしろ」
軽口を叩き合うが、実際は本当に親身に生徒を思う教師である。デネガーに恥をかかせたくはないのだが、いかんせん時間が足りない。なので落第は回避できるよう苦手科目も必死に食らいついている。
「あーあ、仕方ないんだから」
ビビアンは呆れている。
「一緒に勉強する?」
「試験前になったら頼む、エナ。とりあえず今は碧星杯と女王杯のことで手いっぱいだ」
「じゃあ、予定しとく」
そのまま教室になだれ込む。ランチボックスだけ机に放り込んで、手招きするサリエリのもとに集まった。
「『キングスカウチ』の行為は問題になってる」
情報の早い彼女が切りだす。
「双剣使いもいるしブレードグリップを取り落とす場合もあるから持ち数制限なしなルールになってるけど投擲するのは如何なものかって」
「当たり前ぇだろ?」
「いや、あのときは逆上して咎めてしまったけど、機構上は可能な戦法なんだ。僕がとやかく言っていい話でもない」
グレオヌスは反省している。
「グレイの考えを汲んでのことじゃないわ。ブレードを投げて間合いを変えることのほうが問題視されてるの」
「そっちか」
「
ミュッセルは「うっせえよ!」とツッコむ。
「投擲するだけじゃなくてね」
サリエリは続ける。
「例えば土に埋めて罠にすることも考えられるわ。
「それをされるとぐちゃぐちゃになっちゃうわね」
「
グレオヌスも考え込む。
「だから、取り落とすのは問題ないけど作為的に投げるとか、ボディから一定以上の範囲外使用は禁じる方向で調整しているみたい。ルールのあるゲームでないと
「順当なとこで決着つきそうじゃねえか。これでグレイが爆発することもなくなるぜ」
「言わないでくれよ。思いだしたら恥ずかしいんだからさ」
狼頭は顔をしかめる。そうすると
「広い場所で正々堂々とまでは言わないけど、
即時失格などのペナルティが課せられ、手が滑ったなどの言い訳も通用しない。
「おかしなことにならなくて助かった。リングの中までなんでもありの戦場になったら非常に見苦しくなるとも思ってた」
「興行面を重視した結果になるんならクロスファイトも運営を続けられるでしょ。
「じゃあ、一段落ってことで」
ビビアンが引き取る。
「なんかあんのか?」
「あたしじゃないのよ。ラヴィアーナさんが大変みたい」
「ヘーゲルが? あー、ホライズンを見せつけちまったもんな」
フラワーダンスの機動戦術は鮮烈だっただろう。彼らツインブレイカーズのそれとは意味合いが違う。
「昨日もね、私の後ろに他のチームのスカウトの人が溜まってきてて」
エナミも苦笑いしている。
「すっごくやりにくかった」
「そいつぁ定めだ。あきらめろ」
「もー、冷たい、ミュウ」
(スカウトどもの気分はわかる。ヘーゲル製ってだけでも度肝を抜かれたのに、あの動きを見せつけられればよ)
ミュッセルは胸を叩いてくる女子に降参のポーズで応じた。
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