蕾ほころぶ(6)

 ビビアンは残り二機の追撃をさせない。一度止めてメンバーの呼吸を整えさせた。


「いいか? お前らのスピード感に敵は追いつけねえ。追い詰められたら飛んで攻めてくる。そこが一番の狙い目だ」

 ミュッセルがそう言っていたのを思いだす。


(飛んで離脱したわ。たぶん、次に仕掛けるときも飛んでくる)

 障害物スティープルを縫うように飛行して攻撃してくると思われる。


「打ち合わせどおりよ」

 上を指差しつつ指示する。

「あたしたちは相手チームに付き合わない。このまま平面機動で攻撃するわ。できるよね?」

「問題ないに」

「あれだけ練習してきたし」

「わたしは最初から上担当だけど」

「こっちのが長い」

 ウルジーはスティックを示している。


 初戦から無傷の勝利を奪い取るのは意味がある。大きな自信に繋がるからだ。もっとも、口振りからしてすでに自信にあふれているが。


「反転してきたよ。もうすぐ」

 索敵していたエナミが教えてくれる。

「ここまでもベストだったわ。配置よろ」

「うん、リィに暴れてもらおうかしら」


 エナミの誘導は見事だった。アフターキルの動きは逐一彼女のもとに届いている。チームでビビアンペアを狙ってきたのもわかっていたから冷静に対処できる。あとは牽制を交えて注意を引き、背中を襲わせる段取りに持ち込むのみで決まった。


「切り離された振りまでしなくていいから。スティープル使って誘うだけで降りてくるしかなくなる」

 明確な方針が伝えられる。

「わかったに」

「落ち着いて動いてくれたら負けない」

「ええ、あたしたちは負けない」


 そう言って散開の合図をする。迎撃体制を作った。アフターキルは剣士フェンサーがリフレクタで砲撃手ガンナーを庇いつつ上からの狙撃をしてくる。彼らはそれぞれに障害物スティープルに身をひそめた。


「かくれんぼかい?」

「だったら飛ぶのはルール違反じゃない?」

「この鬼は足が速いのさ」


 軽快なステップで回避するユーリィ機を追って、器用にスティープルを縫いながらまわり込んでくる。冷静にホライゾンを影に入れて降りてくるのを待った。


「慎重みたい。応射」

 エナミに言われレイミンが弾幕を張る。

「タイミング合わせ……、今!」

「もらい!」


 スティープルの高い位置にひそんでいたサリエリが機体を回して砲撃手ガンナーを狙撃。リフレクタで防ぐが、反動に押されて降りてきた。

 そこをウルジーが狙いにいく。スティックいっぱいの間合いで叩き落された砲撃手ガンナーが転がる。サリエリが止めの一撃を加えた。


「飛んでる相手は回避能力が低い。必ずリフレクタを使ってくるから叩き落とせ。それで決まりだぜ」

 ミュッセルは断言していた。


(平面機動でならホライズンは他の追随を許さない。最高の機体あいぼうだわ。あの怪物二機を除けばだけど)


 徹底的にパイロットスキル向上のために鍛えあげられた。二人が機体格納庫ハンガーまで来れず、リモートの実機シミュレータで対戦したときもヴァンダラムとレギ・クロウの機動力はホライズンに勝るとも劣らないものだったのだ。


「やってくれるね!」

「当然!」

 剣士フェンサーは潔く降りて斬りつけてくる。


「チームなんだから個人技でどうにかしようなんて考えんじゃねえぞ? 持ち堪えていれば必ず援護が来るからよ」

 ミュッセルの言葉が蘇る。


 ヘテナの剣闘技はビビアンのそれより勝っている。簡単に押し倒されてしまった。しかし、駆けつけたユーリィが蹴り飛ばしてくれる。ウルジーの猛攻に転がって逃げるしかなくなった。そこへ二方向からの狙撃が来れば耐えられるはずもない。


「ノックダウぅーン! 勝者、チーム『フラワぁーダぁーンス』!」

 リングアナも興奮する。

「生まれ変わった『フラワーダンス』、鮮烈デビュぅー! ワークスマシン『ホライズン』の伝説の始まりかぁー!?」


 勝利宣告をビビアンは心地よく味わった。


   ◇      ◇      ◇


「勝利ぃー!」

「いえーい!」


 少年少女八名がブーゲンベルクリペアで祝勝会をしている。ソフトドリンクのコップを打ち合わせて互いの健闘を称えた。

 大きめのテーブルが出されてデリバリーフードが所狭しと並べられている。ケースで頼んだソフトドリンクも十分な量があった。


「ホライズンでの初戦勝利おめでとう。間違いはないとは思ってたけどさ」

 グレオヌスが一番に褒め称えコップをかざす。

「ツインブレイカーズも碧星杯決勝進出おめでとー!」

「ちょっとケチが付いちゃったけど、決勝では恥ずかしくないバトルをすると約束しよう」

「いいのいいのー。あんな熱いグレイも格好良かった」


 雰囲気に酔って皆が口が軽くなっている。女子は得も言われぬ緊張感から解放されて晴れやかな面持ちを見せていた。


「エナの采配も最高!」

 エナミはレイミンにハグされた。

「練習の成果なだけ。みんなの力だもの」

「不安がない」

「ウルにそこまで言わせるなんて名参謀」


 全く危なげない勝利だった。計算がずばりとハマっている。チームは完璧に近く機能したと言ってもいい。


「私も貢献できたと思っておく」

 謙遜もすぎると空気を悪くする。

「ねえ、ミュウ? なんだったら優秀なコマンダーを使わない?」

「なんだよ、お前。まだ稼ぎたいのか?」

「違うの。勝ってほしいから」

 善意とちょっとした下心。

「要らね」

「どうして?」

「ツインブレイカーズはその名のとおりチーム戦の枠組みをぶっ壊してやるチームだ。俺とグレイの連携とパイロットスキルだけで勝ってこそ意味があんだぜ」

 言い切られる。

「もう!」

「くれってったってあげないもーん」


 ビビアンに引き寄せられたエナミの頬はぷっくりと膨れていた。

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