蕾ほころぶ(2)
ヴァンダラムに
普通であれば反動で進むことなどできない。しかし赤いアームドスキンは足に土を噛ませて着実に近づいていく。力押しで間合いを詰めていった。
「い、行け!」
「そんな!」
ブレードグリップを投げたアームドスキンがデロリアス機に押しだされる。もう一本のブレードグリップから力場を生みだした
「ひぃやあぁー!」
声が上ずっている。
「お粗末だな、クソ野郎ども」
「きひっ!」
突進が甘くビームが止んだのを見計らったミュッセルは右拳を固めている。地面を擦ったアッパーが顔面に吸い込まれた。粉砕しつつ抜けていく。
左手で襟元を掴んだヴァンダラムは引き込みつつ右の掌底を胸の真ん中へ。右足をひねって螺旋の応力を生みだして芯を駆けさせた。
「
吹き飛んだ機体がデロリアス機の横を一瞬で通過していく。縦にまくれて土を盛大に巻きあげるとバウンドして転がった。
「ぴ、ピクリとも動かないぃー! 紅の破壊者の必殺技が炸裂ぅー!
我に返った
「
衝撃音とともにその場で前宙したアームドスキンは地面にキスをする。跳ね返って仰向けになった状態で動かなくなった。
「これは痛いぃー! 悲鳴をあげる暇もないかぁー!」
襲いくるビームをブレードスキンで全て裂く。一歩いっぽ近づいていく。ビームインターバルが訪れ、
一気に詰めて肘打ちを後頭部へ刺す。うつ伏せに倒れた機体に膝を突いて乗っかる。開いた両手を当てると
『
倒れていたはずのアームドスキンがなにかにぶつかったかのように跳ねる。再び地に落ちたときには大の字で停止していた。
「一瞬で
後ろから斬りかかってきた
「
手首まで埋まった一撃。機体は側転してリング上を転がり、徐々に速度を緩めると倒れた。
「バイタルロストぉー! もうあとがないぃー! デロリアス選手、最大のピンチぃー!」
大きく息を吐いて、ゆっくりと振り向く。そこには最後に残ったデロリアス機だけが佇んでいる。息つく間もない短い蹂躙であった。
「これで一対一! 決戦の時です! しかし決戦と呼んでいいのかどうか私にもわかりません!」
リングアナの台詞を鼻で笑う。
「違ぇよ。こいつは制裁だ」
「な……にをほざく」
「てめぇの胸に聞いてみな。良心が残ってりゃ答えてくれっかもしんねえぜ」
手首を回しながら近づく。デロリアスは知ってか知らずか後ずさる。滅多やたらとブレードを振りまわして接近を阻もうとした。
「来るな、下劣漢め!」
「どの口で言う? そこに転がってるお仲間が泣くぜ」
「知るか! 勝手にやったんだ! 僕は知らん!」
「ワントップチームで知れた連中なのにか? めでてえやつだな」
アリーナからはブーイングが飛んでくる。多少は往生際をわきまえていれば救いがあったものを自ら放棄したのだ。
「僕はソロでもチームでもリミテッドのトップ選手なんだぞ!」
「それが?」
左腕でブレードを止めてパンチをくり出す。それは胸をかすめただけだった。
「っと、外しちまった」
引き戻すときに指を引っ掛ける。トップハッチを剥ぎ取って戻す。
「ヤベ。手元が狂ったぜ」
「な!」
「やれやれ、俺としたことがよ。くそ。まただ」
手刀が脇を削るが外れている。引き戻すときに再び指を掛け、今度はアンダーハッチを引き剥がした。
「駄目だ。イライラして狙いが定まんねえじゃん。てめぇの所為だぜ?」
「馬鹿を言うな!」
デロリアスは大上段に両手でかざしたブレードを渾身の力で振りおろしてくる。左拳の一閃で手首をへし折りながら弾き飛ばした。そして胸に右手を当てる。そこはもう露出した
「やめ!」
「
「お……」
破砕音がする。コクピットの緩衝ジャッキが砕けたのだろう。デロリアス機はそのまま立っている。
「誰かメディカルルームに連れてってやれよ。そいつはもう、明日の朝までは目ぇ覚めねえから」
「バイタルロストぉー! チーム『ツインブレイカーズ』の大逆転勝利ぃー! 碧星杯、決勝進出ぅー! 今夜も酔わせてくれたぁー!」
試合終了のゴングが連打され強制停止が解除される。手招きするとレギ・クロウが立ちあがるが、それ以外のアームドスキンは動く気配もない。ハイタッチをすると二人は堂々と
「悪ぃ。荒らしちまった」
「すまない。変な空気にさせて」
二人して謝ったのは待機しているフラワーダンスにである。
「いいわよ。なんだか気合入ったもん」
ミュッセルは順にハイタッチしながらゲートを譲った。
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