蕾ほころぶ(1)
「それでは本日のメインゲーム!」
リングアナが吠える。
「碧星杯準決勝第一戦、チーム『キングスカウチ』対『ツインブレイカーズ』を行います!」
週末のアリーナはファンで超満員。まだノービス1クラスでしかないツインブレイカーズは
「まず登場したのは『天使の仮面を持つ悪魔』! 『紅の破壊者』! ミュッセル・ブーゲンベルぅーク選手ぅー!」
「とりあえず黙っとけ」
声援には突きあげた拳で応えておく。
「続いては、『狼頭の貴公子』! 『ブレードの牙持つウルフガイ』! グレオヌス・アぁーっフ選手ぅー! オーバーノービストーナメント最下層からの準決勝進出ぅー! 次々と記録を塗り替えるこの二人はどこまで行ってしまうのかぁー!」
「よろしく」
灰色のアームドスキンは一礼を交えてセンターへと進んでいく。
ここまできても、やはりオッズはこちらのほうが高い。相手がリミテッドクラスともなると遊びでしか
「そろそろひっくり返してやんぜ?」
「ああ、人気以上の信用を勝ち取るほうが先みたいだな」
グレオヌスもわかってきたとミュッセルは思う。
「キングスカウチはワントップチームだ。頭を潰せば脆いが、そのトップをサポートして全員が動く。場合によっちゃ周りから崩していったほうが確実だ。時間は掛かっちまうがよ」
「相手の出方次第だな。でも、トップのデロリアス・トクマキ選手は一度当たってる。珍しく前情報がある相手だからやりやすい」
「奴ならもう見切ってるってか?」
デロリアスはソロでも参戦しており、金華杯ソロの準決勝でグレオヌスが下した選手である。その決勝で二人は激突したのだ。
「このクラスになると前のめりじゃ嵌められちまうかもしれねえかんな。受けにまわってアドリブでどうにかするしかねえ」
「そうしよう。サポートメンバーの動き如何でどこから崩すか決めたほうがいい」
基本方針を決めている内に相手チームの紹介が終わった。センタースペースで対峙する。
「ようやくこのときがやってきた」
早々とブレードを生みだして突きつけてくる男がいる。
「このデロリアス・トクマキ、リミテッドクラスでありながらビギナーに負けた男として嘲笑を浴びてきた。なんと不名誉なことか。このままでは『白銀の
「別に僕個人はそんなこと求めてませんけど?」
「いいや、許されんのだ。汚名をそそがせてもらう。アームドスキンの主戦場たるチーム戦でな。ここでの勝敗が本来の実力だと観客が認めてくれるであろう」
前口上が長い。
「ぐずぐずとしみったれた奴だなあ。能書き垂れてねえでさっさと来いよ」
「貴様! 貴様のようなパイロットの風上にも置けん下品な輩が大きな顔をできるのも今日で終わりだ!」
「確かに長いな。これ、止めるスイッチはどこにあるんだ、ミュウ?」
辟易した相棒はらしくない毒舌を吐く。口ばかり達者な相手はお好みではないらしい。観客の苦笑を誘う。
「これ以上は若者のさえずりと見逃しておけん! さあ、早く始まりのゴングを!」
主導権を握っているつもりか。
「開始前からヒートアップぅー! このままでは勝手に始めてしまいそうだ! さあ、始めましょう! ゴースタンバイ? エントリ! ファイト!」
ゴングが打ち鳴らされた。しかし即座に動きはない。口上に即した速攻が来るのかと拳とブレードを構えた二人は鼻すかしを食らう。
(なんだ?)
静かな立ち上がりに疑念が湧く。
「は?」
デロリアス機の後ろからなにかが放られ、くるくると回転したかと思うと落ちてくる。反射的にリフレクタを展開したレギ・クロウだったが、物体であるがゆえに通過して胸の装甲で跳ねた。
「グレイ、弾き飛ばせ!」
「なに!?」
その瞬間、ブレードが発生する。飛んできたのはブレードグリップだったのだ。電波操作で力場の刃が生まれるとレギ・クロウの胴体に接触した。
「の、ノックダウぅーンっ!」
刹那の間をおいて灰色のアームドスキンは強制機能停止する。下半身から折れて膝立ちの姿勢になった。撃墜判定を受けてグレオヌスは脱落する。
「はーっはっは、戦士とは戦場で油断せぬもの! 愚かしくも敵を侮って呆けていれば……」
「黙れぇー!」
ハッチが開いて狼頭の少年が姿を現すとヘルメットを投げ捨てて吠えた。
「剣士が剣を投げ捨てるとはなにごとかぁー! 自らの命を賭すものを放りだすのは命を捨てるも同義! そんな愚か者に剣士を名乗る資格はない! 恥を知れぇー!」
デロリアス機の後ろにいた
「戯言に怯んでどうする。勝敗はもう決しているのだ。たった一機で五機に勝るとでも? これは戦術なのだよ」
デロリアスは嘲る。
「中入ってろ、グレイ。危ねえ」
「すまない……」
「いいってことよ。これから奴ら後悔する羽目になんだからよぉ。なぁ、
ミュッセルはゆっくりとヴァンダラムは歩ませた。
※本日よりゴールデンウイーク集中投稿を行います。7時12時の二回更新をするのでお楽しみください。
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