決断する花(3)
「どうしよう」
「マジ、マズいぜ」
「かなり困ったことにならないかい?」
困惑するビビアンにミュッセルとグレオヌスが追い打ちを掛ける。メンバーも全員があたふたとしていた。
「えっと……、どういうことかしら?」
ラヴィアーナは輪を掛けて困惑している。
「私、その……。エナミ・ネストレルっていいます」
「ネストレル……、ってまさか!?」
「マズいですよ、主任! 彼女、関係者じゃ!」
ジアーノまで伝染した。
「怒られる? 怒られちゃう?」
ビビアンは混乱の極にある。
「睨まれるにー。メルケーシンを追放されちゃうのに」
「そ、そこまでは……」
「否定できないかも」
「危険」
エナミは必死で弁明しようとしてるがそれどころではない。皆で行って謝罪しなくてはならないかと思う。
「そんなに? でも、アルバイトする許可は貰わないと」
「アルバイトとかそんな程度じゃなくて!」
「まずは局長にお話を通してはいかがです?」
メイド服の美女が助言する。
「それだ!」
「なに、ミュウ!? 連絡手段あるの?」
「例の一件のときに繋がった。口利けるぜ?」
打開策が見えてくる。
「やれ! 今すぐ!」
「今すぐかよ!」
「頑張れ!」
「気楽に応援してんじゃねえ!」
ラヴィアーナも一応、エナミが星間管理局本局長の孫だと確認して青褪めた。フラワーダンスメンバーの単なる友人だという解釈だったようだ。
「よう、局長」
投影パネルに報道などで見知った顔が映る。
「馴れ馴れしい口聞くんじゃないわよ!」
「うるせえよ! んじゃ、なんて切り出すんだよ!」
「あら、賑やか。その感じだと緊急事態ではないのね?」
穏やかに返される。
「ちょっと相談あってよ。エナのことなんだ」
「エナミの?」
「お祖母様、こんにちは」
友人も画角に入って挨拶する。相手を安心させるつもりか。
「実はエナにちょっとしたアルバイトの話があってな、許可が欲しいんだが」
あくまでタメ口を貫くので肝が冷える。
「教育はわたしの領分ではないわ。両親にお願いなさい」
「しかしよ、クロスファイト関係はいい顔しねえんじゃねえかと思うんだ。アリーナに行くのも渋られたって聞いたからな」
「その話ね。お友達のチームをお手伝いするのでしょう?」
話は伝わっていた。
「ちょっと代わる」
「ネストレル局長、お初にお目に掛かります。ヘーゲル社アームドスキン開発部門担当主任でラヴィアーナ・チキルスと申します」
「ヘーゲルの? あの話はそんなに進んでいたの。エナが関係するのかしら」
戦々恐々といった具合でラヴィアーナが説明する。局長は終始落ち着いて耳を傾けていた。
「エナがコマンダー? あなたにそんな才能があったなんてね」
少し嬉しそうなのは気の所為ではないと思いたい。
「あるかどうかは。でも、試してみたいと思ってます」
「挑戦するのは良いことだわ。若いのだから、やりたいことを試してごらんなさい。セティには話しておいてあげます。なにを成すのか見せてちょうだい」
「はい。ありがとうございます、お祖母様」
通信が終わると一同脱力する。平気でいられたのはマシュリくらいのものであった。
「直通? 今の直通? あんた、なにやらかしたのよ!」
赤毛の友人を責める。
「うっせ! 内緒だ。色々あんだよ」
「色々って!」
「それより話ついたんだからお前らがどうにかする番だぜ」
逆襲された。
「も、もちろん。局長さんにまで知られちゃったら負けるわけにいかなくなっちゃったじゃない」
「そんなに気負わなくても」
「しゃーねーな。パイロットスキルは徹底的に鍛えてやる。もう後戻りできねえぞ?」
全体的にプレッシャーが掛かったがモチベーションも上がる。逃げ道なんて作っている場合ではない。やり遂げるしかなかった。
「ラヴィアーナ主任、ここ借りれます?」
「もちろん。好きに使ってくださいな」
まずは許可を得る。
「みんな、トーナメントまでは放課後は毎日練習よ。とことんやるから」
「やるによー」
「まるでスポ根ものみたいじゃない」
「覚悟することね」
「集中」
メンバーの意気も上がる。できるだけのことをするだけ。
「ミュウとグレイもよ」
協力が必要。
「なあ主任、シミュレータ段取りしてくれ。ホライゾン仕様でいい。同じ機体のほうがやりやすい」
「準備します」
「それと毎日は無理だ。俺たちも碧星杯の準備がある」
選手はそれぞれ忙しい。
「譲りなさい」
「譲れるか、馬鹿。でも来れるときは必ず来てやる。気ぃ入れろよ」
「うん」
ビビアンは決意を視線に込めた。
◇ ◇ ◇
「ふふふ」
ユナミは楽しそうに笑う。
「コマンダーね。少しは将来を見込めるのかしら」
指揮統率能力、ひいては管理能力につながる。孫にも同じ才能があるのは嬉しいものだ。
「どうなさいました、局長?」
「なんでも。ちょっと面白そうなことになってるわ。そのうちね」
「楽しみにしておきましょう」
副局長は肩をすくめる。
(彼の運命に導かれているのかしらね。協定者とはそういうものらしいし)
ユナミは巡りはじめた運命に思いを馳せた。
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