天使の仮面を持つ悪魔(5)
「ねえ、ビビ。爆発物の使用は当然レギュレーション違反だよね?」
「当然、そんな危険なもの。でも、それって……?」
「今からミュウが謎解きしてくれる」
グレオヌスは少女にリングを指で示した。
「どうしましたか、フィーク選手。
ヒートマジカルがおののきながら下がっている。
「まさか得意の魔法が封じられたとでも言うのか! 天使の仮面を持つ悪魔に膝を屈するのでしょうか!」
「だから、その名で呼ぶんじゃねえ!」
「ミュウ選手は余裕のようです」
一歩一歩と近づいていくヴァリアント。対してヒートマジカルは下がるスペースを失いつつあった。踵がプレートタイプのスティープルに接触する。
「もう逃げ腰だー」
ユーリィが鼻を鳴らす。
「あそこまでさ。それ以上は下がれない。あの魔法の特性からして、狭い場所だと使いにくい」
「あ、確かに。あいつ、いっつもあのオープンスペースで戦ってたもん」
「使えなくはないけど、かなり限定されるだろうね。それがわかると謎がバレてしまうから避けてたんだ」
グレオヌスが説明すると女子集団が目を丸くする。いきなり尊敬の眼差しを向けられて彼はフィーク並みにおののていた。
「もしかしてグレイってすごい?」
「ミュウと打ち合って平気だったからそうかと思ったけど」
「強者?」
弁解しようと思っていたが試合のほうが新たな展開を見せる。彼女らも慌てて観戦に戻った。
「往生したか?」
「だ、黙れ!」
それが呼び水となってフィークは堪らず右手をかざす。ヴァリアントが腕を一振りすると明後日の方向で爆発が生じた。
ヒートマジカルは焦って左手の杖を放り出す。今度は左手も振ってみせた。両手でも魔法を使えるのかと観客は喉を鳴らす。
「ばーかが」
ミュッセルは同時に突進していた。上半身が落ちるとともに左手だけが高い位置に残る。ふわりと振られて機体がスピンした。すると、ヒートマジカルの顔面に魔法が炸裂。プレートに叩きつけられる。
「喰らえよ」
「きひっ!」
変な悲鳴があがる。
半壊していた頭部がヴァリアントの右拳とプレートに挟まれて完全に潰れる。部品を撒き散らして首から上が無くなった。続けて左の拳が腹を突きあげる。
「ぐはっ!」
両の拳が連続で炎ペイントのアームドスキンを殴りつける。次第にそのつま先が宙へと浮いていく。そのくらい激しい殴打だった。
「なんとぉー! これは一方的だぁー!」
リングアナが吠える。
「こんな幕切れがあるかぁー! 魔法より拳のほうが速かったぁー!」
フィークを映す映像は悲惨なものだった。
「あー、かわいそ。あれじゃギブアップもできないし」
「それもあったか」
「ミュウ、頭にきてんだわ」
殴打が止み、ボロボロになったヒートマジカルがずるずるとプレートに背を預けて崩れ落ちる。そこでゴングが連続で打ち鳴らされた。
「
ところが勝利を宣言された少年はまだ止まらない。ガントレットを腰に戻すとヒートマジカルの腕を取って持ちあげる。肘を足で蹴って引きちぎった。
「なんとぉー! さらに破壊だぁー! 壊し屋の異名は伊達じゃなぁーい!」
「うっせ。よく見ろよ」
彼は掲げた前腕の装甲を剥ぎ取る。そこには見慣れない機構が組み込まれているようだった。接近してきたドローンに示す。
「こいつは射出装置だ」
指で示している。
「ここに並んでるカプセル。たぶん、これに液体炸薬が詰められてる。こんな小っせえのにあの爆発力なんだから、かなり高性能のやつだな」
「これは、もしかして?」
「んで、この後ろのが加速器とワイヤーリール。打ち出したカプセルをスティープルの裏に放り込む仕掛け。長さを調整して角に引っ掛けりゃ曲がって入り込む」
カプセルにワイヤーを接続して撃ち出していたという。
「だからスティープルの向こうにも届く。これが魔法の絡繰りってやつだ」
「なんと怖ろしい仕掛けでしょうか! しかもこれはレギュレーション違反だぁー!」
「こいつの勝ちは全部帳消しだろ?」
しばしの協議ののちにアリーナに向けてアナウンスがある。それはフィークの勝利を取り消すものだった。
「すでに確定した払戻金はそのままといたします。魔法の仕組みを見破れなかったクロスファイト運営の責任です」
裁定が下された。
「ただし、フィーク選手の賞金は没収とします。ポイントも付きません。本違反により当選手はクロスファイトからの永久追放といたします。そして本試合は正式にミュッセル選手の勝利とし、賞金、ポイントともに付与されます」
宣言がなされてから中央に歩み出たヴァリアントがそのハッチを開ける。ヘルメットを脱いでシートに放ったミュッセルが両腕を掲げて勝利を誇った。彼に賭けていた観客は勝利を称え、フィークにかけていた者は項垂れる。
(これは思ったより遥かに面白いな)
湧きあがる女子たちとハイタッチしながらグレオヌスは思っていた。
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