天使の仮面を持つ悪魔(3)
炎のペイントを施された『ヒートマジカル』とミュッセルの真紅の『ヴァリアント』が対峙している。試合開始への期待は盛り上がりつつある。
「自称『魔法使い』」
ビビアンはおかしな表現をする。
「あいつのアームドスキン、変な攻撃するの。あり得ないのよね」
「そーそー、なんか腹立つ」
「そもそも偉そうなのよ」
ユーリィやレイミンにも不評だ。
「変な攻撃か」
「なにか仕掛けがあるはずよ。わからないけど」
「不気味」
サリエリやウルジーも納得していない様子。
(まあ、ほとんど魔法じみた
物騒に過ぎるとグレオヌスは思う。
「プレビュー出るわ。見ればわかる」
トーナメント戦では試合を盛り上げるために前回の勝利シーンが流されるらしい。
ヒートマジカルの試合相手は
(普通に考えれば勝負ありの間合いだけどな)
グレオヌスの経験上そうとしか見えない。
距離を離された時点で杖状打撃武器しか持っていないヒートマジカルには攻撃手段がない。それなのに間合いを詰める努力をする気配もなかった。
「ここから勝利?」
「そうなの」
フィークが機体に右腕を掲げさせる。その瞬間、アングルの影にいるアームドスキンの頭部で爆発が起こった。煙が晴れると頭が半壊している。
「なに?」
「これを魔法だって主張してるの」
ゆっくりと歩み寄るヒートマジカルが何度も平手を振る動作をする。その度に機体各所で爆発が起こる。最後は胸の正面で爆発が生じてアングルに叩きつけられた。そのまま倒れ伏す。
「これで
「彼は何者なんだ?」
遮蔽物の向こうで爆発を起こす武器など彼も知らない。
「ただの金持ちのお坊ちゃん。最初の頃は鳴かず飛ばずだったのに、あの機体を手に入れてからは負け知らずなのよね。変だわ」
「パイロットの特殊能力とは言わないだろう? アームドスキンに特殊兵装が施されてる?」
「炸裂弾頭とか使ってる様子がないらしい。幾らなんでもレギュレーション違反だし」
技術面に詳しいらしいサリエリが教えてくれた。
「誘導弾じゃない。そもそもそんなの飛んでる様子がないわ。だから攻略できなくて」
「それで勝ち続けてるか。機体のチェックとか入らない?」
「簡単な仕様チェックだけ。アームドスキンメーカーが試験場にするくらいなんだもん。特許が関わるから設計図の提出なんて求められないし」
あまり厳密に管理しようとすると『クロスファイト』自体が成立しなくなるという。なので、ギャンブルとして八百長やパイロットの情報リークなどは厳格に禁じられているが、アームドスキンそのものに関しては使用武器以外のレギュレーションが設定されていないそうだ。
(怪しい。が、罰せられない。誰かが打ち負かして魔法を暴かないかぎりというところか)
仕組みは理解できる。しかし、危険だとグレオヌスは思った。爆発の規模自体はそれほどでもないが、場合によっては相手パイロットを殺しかねない武器に感じる。
「リング内とはいえ殺人罪が免除されてたりしないよね?」
「当たり前でしょ。ここは戦場じゃないわ」
ビビアンも血相を変えて反論してくる。彼らにとっても娯楽の域を出ないゲームという認識なのだという。
「ミュウならきっとやってくれる」
「うん、ミュウだもんね」
「お願い」
期待を一身に背負って真紅のアームドスキンが前に進み出てくる。ヴィリアントの前の試合のプレビューも始まった。
「これも瞬殺だったのよね」
「相手、
ブレードの構え方は自然体で様になっている。揺るぎもしない切っ先がパイロットの扱いの慣れを示していた。
そこへ赤い閃光が飛び込んだ。その軌道を薙ぐ一閃。宙を走ったブレードはすぐさま跳ね上がる。しかし、そこにもヴァリアントの姿はない。
「それじゃ遅い」
再び斬り落としを掛けるがミュッセルは懐の中。手首を叩かれブレードは明後日の方向へ。低い姿勢のヴァリアントが拳を握っている。彼が昨日食らった下からの一撃だ。
見事に胸にヒットすると機体ごと浮かせる。半身に変えたミュッセルは浮いた相手の鳩尾に肘を入れる。そのまま叩き落した。
「あれじゃ意識を保っていられないな」
「でしょ? これで
勝利のゴングが打ち鳴らされた。
(三合しか持たなかったか。面白いね)
胸に湧いたのは好奇心だ。
別のパネル内では中央のスペースに二機が到達している。いよいよ開始のゴングが鳴らされようとしていた。
「我が魔法の餌食となるのは貴様か、蛮人め」
「言いやがったな。てめぇのその魔法ごとぶん殴ってやるぜ」
「はっ、スマートさの欠片もない。子供が無謀なだけでクロスファイトを汚す時代は今日で終わりだ」
(果たしてそうかな? 僕の勘が正しければ、小手先の技ではミュウを倒せない)
グレオヌスはある可能性に思い至っていた。
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