天使の仮面を持つ悪魔(2)
「乗機はヴァーリアぁーントっ!」
「話聞け、こら!」
リングアナと喧嘩を始めるミュッセル。観客は爆笑の渦に巻き込まれている。どうやらいつもの流れらしい。
「なにか?」
リングアナの口調は普通に戻っている。
「だから、何回も何回も何回も二つ名なんて付けんなっつってんだろうが!」
「皆様がお喜びになっています。そちらが優先です」
「俺の気持ちはなおざりかよ!」
やり取りがなされるたびにドッとアリーナが湧く。完全にエンターテインメントの前フリと化している様子だった。
(なにやらされてるんだ、ミュウは)
グレオヌスも失笑を禁じえない。
当然ミュッセルとて本気で言っているのだろう。そんな小芝居に付き合うタイプではない。要は外見を揶揄されていると感じている。
しかし現実は異なる。アリーナに投影される選手紹介パネルに映っている少年の顔も美少女にしか見えない。
(天使っていうのも納得。だからこそ気にしてるのか)
なんとなく理解はできる。
(ミュウは格闘家のつもり。それもわりと本格的な。事実、強い相手に挑むのを楽しみとしてる)
彼への対応を見れば明白である。強いとわかればすぐに打ち解けてきた。本気で試合できるのが心から楽しいのだろう。
「色物扱いされるのが嫌なんだろうな」
「別にそんなんじゃないのよ」
ビビアンは否定する。
「ミュウが強いのはみんな知ってる。そのうえでイジって楽しんでるだけ」
「でもさ、彼としては出鼻ではなく試合で楽しませたいんだと思う。ここで湧いてしまうのは不本意なんだろう」
「それは、ね」
女子の一団も皆理解しているようだ。同じに笑ってもいるが、これからの展開にもわくわくしているらしかった。
「で、『紅の破壊者』っていうのは?」
もう一つの二つ名に言及する。
「それはミュウが壊し屋だから」
「壊し屋ね」
「クロスファイトは三つのスタイルでエントリできるの。一つは
順に挙げていく。
「ミュウは三つ目の
「つまり、軍のセーフモード武器による演習と同じって意味だね?」
「ええ、あとはパイロットの失神と一定以上の機体破壊による
グレオヌスの知っている演習も似ている。軍の場合はセーフモードで相手へのダメージは与えられないとしても、装備している武器は全て使える。手足や頭部などへのダメージは損傷として処理され、主要部分では撃墜と判定される。
(本来は機体を壊さないはずの模擬試合で壊されてしまう。壊された側は悪魔の所業と感じるかもね。それで『天使の仮面を持つ悪魔』か)
理解できてしまう。
「失神させるか、戦闘不能とされるくらい機体を破壊するか、ね」
難易度は前者のほうが少しは簡単な程度の差しかない。
「それでも圧倒的に強いからミュウは認められてるわ」
「勝ってるんだ」
「うん。だから今日も
新しい要素が語られた。
「クラス?」
「ランクって言ってもいいわ。下からビギナー、ノービス1、ノービス2、
「一番上? 最強クラスじゃないか」
さすがに意外だった。強いとはいえ大人に混じってのこと。限界はあろう。それなのに美少女かと思うような少年が頂点を極めているのだ。
「勝利者には賞金とかもあるんだよね?」
「もちろん。結構いい額よ」
「それで自前のアームドスキンが持てたのか。ようやく得心したよ」
「グレイって古臭い物言するのね?」
女子たちに笑われた。父親の口調が身に染み付いている。気は付けているつもりなのだが時々もれてしまう。
「で、この試合がオーバーノービスってことは、ノービスクラス以上は参加できるトーナメントなわけだね?」
尋ねると、ビビアンはにっこりと笑う。
「興味湧いた?」
「結構ね」
「オーバーノービスだからかなり開かれたほう。普通はオーバーエースが多いわね。下はアンダーノービスがメイン」
トーナメント形式にも色々存在するらしい。
「クラスフリーのオープントーナメントっていうのもあるけど、実際に参加するのはせいぜいがノービス2以上ってところ。それ以下が参加したって瞬殺されちゃうもん」
「わかる。実力差がありすぎるとね」
「賭けの対象にもならないから登場しただけで大ブーイング受けたりね」
(想像できる。新兵がろくに訓練も受けずに演習に参加しても邪魔にしかならない。得るものもほとんどないまま終わるだけでは意味ないし)
どこの世界でも一緒というところか。
「新星ってことは、あのフィーク・ゴレイル選手ってクラス低いけど強いってこと?」
「あー、あいつねー」
女子グループ全員に妙な顔をされてグレオヌスは閉口した。
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