天使の仮面を持つ悪魔(1)
ビビアンに連れていかれた場所は居住区画でも中心部にある超大型イベントホールのような場所。直径は1000m以上、高さも200m以上はあろう。グレオヌスでも見上げるほどだった。
「ここは?」
彼女ら女子グループが入口を示す。
「中で試合があるから入ろう」
「いや、だから。なんの試合?」
「入場だけなら
ビビアンが小さなスティックをゲートにかざすと開く。狼頭の少年は仕方なく携帯端末をタッチして精算した。
「うわ、広っ!」
「すごいでしょ?」
カーブしたエスカレータで上がり、入口をくぐるとアリーナスタンドになっている。100mの円周を形作るスロープに無数の座席が並んでおり、その中には直径800mほどの平地のスペースが広がっていた。
「ここは?」
つい何度も同じ質問に至ってしまう。
「『クロスファイト』リングにようこそ、グレイ。席は自由だから良いとこから観ましょ」
「クロスファイト?」
「観たほうが早いから」
聞き慣れない単語だがまったく知らないものでもなかった。最近になってじわりと話題になってきているギャンブルである。
グレオヌスもアームドスキンが関わるから情報を目にしただけであって、ギャンブルに興味は薄い。縁のないものと思っていた。
(確か、アームドスキンの開発促進のために設けられたゲームで、組織の維持運営目的でギャンブルとしても興行していると)
そういう認識である。今のところ、ここメルケーシンと一部の国でしか運営されてないはずだった。
「こんなところで……」
「知ってた?」
グレオヌスは「聞きかじり」と答える。
「こんな大袈裟にやってるものとは思ってなかったんだ。好きな人のやるギャンブルだとばかり」
「アームドスキンメーカーがしのぎを削る場所でもあるんだけど、一般的にはそう思われてるわよね」
「でも、ここで試合って」
(ミュウが?)
彼は一般人のはずである。
ビビアンが説明してくれる。中央部分は『リング』と呼ばれ、その名のとおり800mの円形をしている。中には幾つもの障害物が設置されて、向こうまで見通せる場所は限られていた。
「あの障害物はスティープルっていって、あんなふうに丸いポールやプレートっていう平板、断面がL字になってるアングルがあるわ」
一つひとつ指差して教えてくれる。
「高さは100m。ポールは直径2mから3m。プレートが幅3mから8mで、アングルは5mから10mのものがあるの」
「なるほど。あれで隠れたりできるわけだね」
「そう。真ん中には200mのなにも置かれないスペースがあるけど、それ以外には毎日ランダムに配置されるのよ」
確かに
「でも、あそこ見えなくないか?」
「大丈夫」
リング内には多数のドローンが飛んでいる。それが肝心な場所を映してくれるというのだ。
「わざわざ観に来る必要あるのかなって感じするけど」
「臨場感。始まったらわかるわ」
説明を聞いているうちにアリーナが騒がしくなりはじめる。もう少しで試合が始まるらしい。アナウンスも開始される。
「
拍手に包まれる。
「クロスファイトに突如として現れた新星がとうとうオーバーノービストーナメントの準決勝まで上がってきたぁー! いったいどこまで行ってしまうのかぁー! オッズが高いだけに皆様の期待も急上昇ぉー! 今日はどんな戦いを見せてくれるのか大注目だぁー!」
ボディに炎のペイントがしてあるアームドスキンが登場する。平手を掲げて観衆からの声援に応えている。左腕には杖のような武器を備えていて、どう使うのかさえ理解できない。
「びっくりした。こんなエンターテインメント性の高い試合だったんだ」
声を張らないと隣の少女にも届かない状態。
「うーん、最初に観るにはちょっと色物っぽいものになっちゃったけど」
「色物?」
「変わり種ってこと。グレイって軍の中で育ったんでしょ? ちょっと興行色が強くて嫌なイメージ持っちゃうかも」
ビビアンはちょっと苦い顔。
「アームドスキン同士の戦闘に変わり種もなにもないような気がするけど」
「ま、色々あるのよ。見てのとおり、戦うのはプロの戦闘職以外の人も多いから」
理屈はわからなくもない。彼が予想していたのと違ってエンターテインメント色強めの運営になっているようだ。アナウンスからしてかなり煽っている。
「お待たせしましたぁー!」
ひときわ声を張り上げるリングアナ。
「
「うっせぇ! てめぇ、喧嘩売ってんのかぁ!」
グレオヌスの見上げる大型パネルに昨日見たばかりの真紅のアームドスキンの登場シーンが映し出された。
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