第155話 思い出

「ねえ、間宮君、今更ではあるんだけど、一つ聞いて良い?」

「ん、なに桜井?」

「間宮君って、黒崎先生とどういう関係なの?養母っていうのは知ってるけど、そうなった理由は?」


 確かに、普通はおかしいんだよな。

 クラス担任である先生を間違ってお母さんと呼んだ事がある奴も稀に居るが、俺がそれをやっても間違いとは言えないわけだから。


「俺と美月にとって、白龍先生って叔母に当たるんだよ。その縁」


 そう言うと、花笠が懐から眼鏡を取り出して俺に手渡してきた。


「ちょっと、かけてみて?」

「んっ…これで良い?」


 確かに花笠の眼鏡と白龍先生の眼鏡は似てるから、多少面影はあるかも知れない。


「言われてみると、結構似てるわね」

「ん…。なんか……」


 不意に、霧崎が中村先輩に目を向けた。


「…え、なんすか?」

「……眼鏡してる時の中村先輩にも、似てる」

「うぇっ?」

「…確かに、そうかも」


 結月もそれに同意を見せた。

 俺は違う部分に驚いたが。

 …中村先輩って眼鏡すんの?と思っていたが、どうやら普段はコンタクトらしい。


「お前ら遠縁の親戚とか言ってたろ」

「遠いってほど遠くはないっすよ。近いって程でもないっすけど……」

「まあ、かなり複雑ですね。でも、俺が架純お姉ちゃんって呼んでも違和感はない程度です」

「「「「「…………」」」」」

「間宮……それは勘弁して欲しいっす…」


 このからかい方はダメか。反応が悪過ぎるな。

 まあ俺も、夏芽姉さん意外を姉と呼ぶのは違和感があるからそれでいいけどね。


 それからも少し話をしたあと、会計を済ませて店を出た。

 

「あ、そうだ。皆まだ時間大丈夫?」

「ちょっと寄りたい所あるんだよね〜」


 椿先輩が二人揃ってニヤついている。

 俺は特に理由もなく結月に目を向けたが、彼女は小さく首を横に振った。

 どうやら、何も聞かされてないらしい。


「皆大丈夫そうなんで、行きますか」

「「さあさあ行こう〜」」


 かなりテンションが高いけど、何処に行くんだろう?

 先頭を歩く椿姉妹に付いていく中、最後尾で結月が俺に肩を並べてきた。


「神里先輩、どうかしました?」

「…今代の生徒会が揃うのは今日で最後だよ、最後尾でいいの?」

「人の前に立つのは似合わないんで」

「そう…」


 少しの沈黙、その後で彼女は肩が触れ合う距離まで近付いて来た。


「…一つ」

「ん」

「……後悔してる事がある」

「…何?」

「…君と初めて会ったあの日、君を信用しなかった事。君の優しさを信じられなかった事」

「……難しい話だと思うけどな」

「でも、もう少しだけでも一緒にいられたら…」

「過ぎた事でしょ、言っても仕方ない」

「………これも、言ったって仕方のないことだけど…────」

「真、結月、遅れんなよ!」


 結月は、こちらを見ずに、本当に小さな声で何かを言った。

 理緒先輩の呼びかけに重なり、俺に聞き取ることはできなかったが…。

 言っても仕方のないことなのであれば、聞いたって仕方が無い。


 それがたとえ告白なのだとしても、俺は言われたってどうしようもない。


「…再開出来ただけ良かったと思ってるよ、俺は」


 先行した結月にそれが聞こえたかは分からない。

 …どっちでも良いけどな、結月はその先に行きたいと思ってた訳だから、言ったって仕方ない。


 それからしばらく歩いたあと。


 椿姉妹に案内されたのは、町内の大きなクリスマスツリーとイルミネーションの綺麗な広場だった。


 人気の多い場所で美少女集団がキャッキャしてるのだから、目立たない訳が無い。


「ほらほら、このメンバーが揃うのなんてこれが最初で最後なんだから、記念撮影しようよ」


 玲香先輩のその言葉に、俺は自然と笑みが漏れた。


 ベタだけど、思い出として残すには一番良い。


 そう思って玲香先輩に駆け寄る俺は、周囲からの視線を一番集めているのが自分だったと気付くのに随分と遅れたのだった。

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