第147話 文化祭⑤

「霧崎、お前そろそろだろ」

「ん。行ってくる」


 撮影は行かなきゃいけないから、後で俺も合流するが…。取り敢えず体育館に向かった霧崎を見送ったあと、美月と真冬は一度教室へ戻るようだ。


「あ、美月。これ、俺の荷物教室に戻しといて」

「…真は?」

「三年の人たちと合流してくる」

「誰?」

「普通に理緒先輩と…」


 玲香先輩、と言おうとしたその時に、とんとんっと後ろから肩を叩かれた。


「私だよ」


 えっ、いや……。


 すぐに振り向いて、俺は思わず眉をひそめた。そこには玲香先輩……と、瓜二つの女性が居た。


「華怜先輩じゃないですよ」

「あれ、だいぶ寄せたつもりなんだけど…。似てない?」


 双子は見慣れてるのと、声が違うのは嫌でもわかるが、別に言う必要も無いだろう。

 …いや、てかこの人…。


「まいっか。じゃ、間宮借りるね〜」

「いやいや…今、真君が合流する人が違う話してましたよね?」

「玲香のところ行くんでしょ?私もだから、一緒にいこーよ」

「…何でも良いですけどね」


 若干不満げな美月と真冬を残して、華怜先輩は俺の腕を引いて歩いた。

 少し離れて、人混みを抜けたあと、俺は先輩に一歩近付いて肩を並べた。


「…で、なんでわざわざ妹のフリしてこっち来たんです?」

「あれっ…?気付いてたの…?」

「話し合わせてただけですからね」

「君よく、混乱せずにそんな事出来るね…」


 双子は見慣れてるし、声でわかる。あ、妹の方に寄せてるなってすぐに分かった。


「…美月ちゃんって、君のこと好きなんでしょ?」

「そうですね」

「つまりライバルだよね?」

「えぇ……あれ本気なんですか…?」

「とーぜん」


 念の為、もう一度確認した。

 どうやら俺が思っているよりも、玲香先輩は俺に本気らしい。

 正直、この人には大した事をした記憶はないが…。


「だから、ちょっと気になったんだよね、コレ」


 突然手を取られて、何の事かと思ったら、玲香先輩が、俺が左手に付けていた指輪に視線を落としている事に気付いた。


「高校生が嵌める感じの奴じゃないよね、コレ」

「……まあ、そうですね。高校生が嵌める感じの奴では無い…」

「…ところでちょっと話変わるんだけど…。私さっき、美月ちゃんが着けてたのと色違いのブレスレットを着けてた女の子見かけたんだけど…」


 …話変わってなくない?


「…はあ、何で俺にその話を?」

「ふーん。とぼけるんだ〜…隠してるの?」

「……いや、何をどうしたら、その話が俺に帰結するんですか?」

「さあ、何でかな〜」


 ……いやいやちょっと待てよ、この人の観察眼どうなってんだ。

 不意に、玲香先輩がニヒルな笑みを作った。


「ま、別に良いんだけどね。君が秘密主義なのは林間学校の頃から知ってるから」


 …目が笑ってないんだけど。


「けど、あまりにも話してくれないと…。元生徒会長さんが拗ねちゃうよ?」


 いやいやそう言われても…。

 …と、思ったが…。俺は


「……や、別に俺は何も秘密にしてるつもりは無いんですよ。真正面から聞かれれば普通に答えますよ」

「あ、そうなの?じゃあ聞くけど、美月ちゃんか、その妹さんと付き合ってるの?」

「それは、NOです」

「…じゃ、婚約?」

「そっちはYES」


 普通に答えると、玲香先輩は乾いた笑いを浮かべた。


「私も華怜も、男の子に好かれないなぁ…」

「いや、多分先輩達に見る目が無いだけですよ」


 俺と大翔でしょ?見る目皆無じゃん。


「だってさ、理緒ちゃ〜ん。今の聞いたぁ?」

「…前に聞いてたぞ。中村と遠縁の親戚だったとかって話と一緒に」

「うっそぉ…!?私除け者にされてたの?」


 いや、理緒先輩には中村先輩と話している所で偶然出会したから知っているだけで…。いや、それはまあ良いとしよう。


「…じゃ、体育館行くか」


 ゆらりと踵を返した理緒先輩に申し訳無さをかんじながら、俺は首を横に振った。


「いや、悪いんですけど…。俺これから、どうしてもやらなきゃ行けない事があって、生徒会バンドの撮影変わって欲しいんです」

「これまた急だね。聞いてないよ?」

「言えるタイミング無かったんで。お願いしますね。じゃ、あとで」


 内容を追求される前に、俺はその場をあとにした。


 それから向かったのは体育館の裏。

 体育館が併設されている公民館、その用具倉庫。


 そこで足を止める。


 サボりという訳では無い。

 元々ここには来る予定だった。

 ただ、本来よりも少し早い時間だ。


 途中、いつも通りに行き当たりばったりで予定を切り替えた。

 …こんな事ばかりやってるのに、俺を信用してる人たちが居るのだから俺は人望があるよなぁ…。


 なんて考えていると、不意に背後からがさっ…と足音が鳴った。


 そんな状況に、俺はそっと微笑みを浮かべて、ゆっくりと振り向いた。

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