第146話 文化祭④
お昼時が過ぎた頃、何人かの交代が入った。
俺もまだ昼食を食べてないので、一緒に交代した
因みに俺達の交代で入ったのは達也や大翔あたりの男子共だ。
あまりがっつり食べる気も起きないが、真冬に提案されて、外の屋台でホットドッグを楽しんでいた。
そんな時、少し前を歩いていた真冬がふと足を止めて振り返った。
「あ…そうだ、言葉を選ばなそうな二人が居るからちょっと聞きたいんだけど…」
「…それ誰の事言ってるんだよ?」
「あんたじゃない方の二人」
と、言われてみれば俺じゃない方の二人は揃って、こてんと首を傾げた。狙ってんのか?
美月も霧崎も割と言葉選ぶと思うのだが、それは俺だけなのか?それとも、俺を相手に話している時には言葉を選ぶのだろうか。
一人疑問に思っていると、真冬が中々難しい話題を出して来た。
「美容整形ってどう思う?」
……いや、それは流石に聞く相手を間違えてないか?
「無理」
「ん…私は…。別にいいんじゃないかな…って、思う」
…しっかり意見分かれたな。
面白い話が聞けそうだと思って黙っていると、美月が目線だけをこちらに向けてきた。
「…因みに真は?」
「……ノーコメント…。って言う時点で察してくれ」
あまり好きじゃない、と言ったら嘘になるくらいには偏見があるし、理由は分からないが、生理的に受け付けない。
ただ、思ってるだけ。
思ってる事自体は、俺は悪くないと感じてる。それを表立って言うことは不味いだろうけれど。
「ん…そもそもなんで美容整形?」
霧崎の質問に、真冬は眉を顰める。
「あたし親戚に、ちょっと年の離れたお姉さんって感じの人が居たんだけど…」
と真冬がそこまで言った時点で、俺はなんとなく話の内容を察した。
「久しぶりに会ったらめっちゃ顔変わってて、苦言を言ってたら怒られて喧嘩になったとか、そんな話か。大方、『大学生のくせにどこからそんなお金出したの?』みたいなこと言ったんだろ」
「なんで私が言った事まで分かるわけ?しかも大学生って事まで…。最早怖いんだけど」
「そりゃ分かるって…」
「バイトとかしてないし…特別、何かすごいお金持ちだとか収入があるとかって訳じゃない筈なのに、何十万何百万って、どこから捻出してるのかを問いただそうとしたら……。まあ、喧嘩になったの」
俺みたいに特別な収入が無い大学生で、バイトも何もしてないのなら…。いわゆるパパ活や援助交際なんかをしているのか?ということを、真冬は問いただそうとしたのだろう。
「まあ、お前は高校生で成功してるアイドルだからな。稼いでて顔も良くて人気もあって…。その人は多分コンプレックスがあったから整形なんてしてんのに、そういう悩みが全くない真冬に色々言われたら、馬鹿にされてる気がしていやにもなるだろ」
ただでさえ鋭い目つきが、より険しくなったので俺は彼女の頬をムニッと痛くならない程度につねった。
「なんだよ真冬、その可愛い顔になんか不満でもあんのか?」
「アンタがコンプレックスがどうとかって話を持ち出したから警戒してんの…!」
「んー?世間評的には聖人君子な俺にコンプレックスがあるとでも?」
「そろそろシャレにならないから止めた方が良い」
暗にこれ以上言うとダメージを受けるのは自分だぞ、と美月に釘を差されたので、俺は肩を竦めて話題を変えた。
「コンプレックスって言うと、俺は霧崎が美容整かに肯定派なのはちょっと意外だったな」
「……そう?」
「お前もそういうのあったけど、自分で克服したろ?」
「ん、だから…。外見のことで毒を吐かれる事の辛さは知ってるつもり」
「…そうだろうけど…」
霧崎が他人を見下す性格じゃないのは知っているが…。もし、パパ活的な方法で得た金銭で整形をしてる、と言う事だったら多少なりとも思う所がありそうだと思ったのだが。
霧崎は少し頬を染めて、微笑みを浮かべた。
「『見返したんだな』って。私は、君にそう言われたくて頑張った…。努力できる…努力したいって、そう思える理由があった分、他人より幸運だったし、苦じゃ無かった」
そんな言葉に対して、どんな返答をすれば良いのか分からずに俺はそっと顔を逸らした。
「…真は、紫苑に何をしたの?」
勿論、彼女の拉致事件よりも以前の話だ。
「別に、大した事はして無い。格好良いなって思う女の子が居たから、本当にちょっと協力しただけ」
俺が霧崎に感じている気持ちというのは、ある意味で天音さんに対して抱いている様な憧れに近いのかも知れない。
…だからと言って、彼女に対してどうこう言うつもりは無いが…。
若干重苦しい空気になったせいか、ホットドッグは味がしなかった様な気がする。
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