第145話 文化祭③
「あっ、間宮君来た…!交代よろしく!」
「はいよ、任されました」
猫耳ジャージメイドという格好をした女子生徒と交代でシフトに入る。
凛月は今頃、ニヤニヤしながら俺のことを待っている事だろう。
俺は他の生徒達より少し露出度の高い衣装を渡されている。因みに本来、男子生徒は犬耳の執事服を渡されている。
………理不尽だろこれ。動物虐待で訴えるぞ。
さて、行くかぁ……。
憂鬱な気持ちになりながら大盛況のホールで視線を一身に浴びながら歩き、ちょうど入ってきたお客に対応をする。
「お帰りニャさいませ、ご主人様!」
「「「えっ…」」」
入って来た三人の顔を見た時、俺は自分の作り笑いが盛大に引き攣ったのを感じた。
そこに居たのは、汐里とクロエ、そして渚という、この高校に入ろうとしているだろう三人の後輩候補だった。
「…真兄…?」
「お兄さん…?」
「真さん…とうとう男子扱いされなくなったんですか…」
…どうしよう、今すぐこの猫耳カチューシャを投げ捨てて逃げ出したい。
それでも、俺は頭に入っているマニュアル通りの行動をとる事にした。
「お席へご案内致しますね!」
「…脅されてたり…」
「……他の客の邪魔になる、さっさと移動しろ」
「「「あ、はい…」」」
こちらを見ながらヒソヒソと陰口を言う三人を席に案内して注文取りは他のメンバーに任せると、すぐに入って来た別のお客さんの対応に足を運ぶ。
視界の端で、席に座る凛月が必死に笑いをこらえている姿を見つけた。
若干イラッとする気持ちを抑えつつ、仕事に意識を集中させる。
みんながみんな自分の任された役割に徹するのが基本で、偶にイレギュラーが発生した時は手に余裕のある人が動く。
報連相を徹底しつつ、全員が柔軟に動ける様に心の余裕を持って行動できるように、きっちりと練習してある。
ふと廊下の方に目を向けると、客引きとして天使猫の衣装を着た夜空が客引きをやらされていた。
………あれ?燕尾の執事服は…?
せっかくなら、蜜里さんと一緒の特別衣装見たかったんだけどな…。
ふと、そんな夜空の横を通って入った来た二人組のカップルに対応しようと足を運ぶ。
「やあ真、今日は可愛い格好してるね」
「……なんだ、晶かよ…。九条に彼女と居るって聞いたんだけど…」
俺は晶と一緒に入って来た中学の先輩である榊雛乃先輩に眼を向けた。
「…さっそく浮気か?」
「違うよ、ちゃんとお付き合いしてます。久しぶり、間宮君」
雛乃先輩にそう言われてはこれ以上晶にちょっかいかけるのは止めにするしかない。
と言うことで標的を変えた
「お帰りなさいませ、奥さま」
「相変わらずからかうのが上手だね」
「昔はそんなにやってませんよ。お席にご案内しますね」
「はい、お願いね」
正直な所、九条の言い草からして大方の察しはついていたのだが…。それはそうと、それにしても、この二人の組み合わせと言うのは意外だった。
中学では大した関わりは無かったはすだが、高校に進級してからは何かあったんだろう。
席に移動して、注文を取るついでにこっそりと、晶に聞いてみる。
「…因みにきっかけって?」
「部活のマネージャーってだけ。ちょっと前に、雛乃先輩から告白されて…」
高校に上がる少し前くらいから、病気がちだった体が良くなっていったという話は聞いていたが、そうだったのか。
「最初は断ったけど、熱意に負けた感じか」
「…なんで一回断ったって分かるのかな」
「お前が、結構一途なタイプなのを知ってるからだな。そんなお前に報告しとくと、天使様は俺が貰ったよ」
「……ま、そりゃそうだよね。どっち?」
「両方」
「えっ…「あ、注文良いかなっ?」…」
「はい、どちらに致しますか?」
苦笑いのまま表情を固めた晶に、俺も苦笑を返してから雛乃先輩の注文を取って、少しホールの様子を確認してから一度裏に戻った。
なにやら厨房が切羽詰まっている様子なので、そちらに手を貸す。
「あ、真君丁度いいところに来た…!」
「手が足りてないのは?」
「軽食の方!お昼時だからかな」
「予想よりも人多いもんな、ホールも結構一杯一杯だよ」
俺以外はね。
その後、俺は一時間近く厨房に拘束される事になった。
後から聞いた話によると、その場の口コミで猫耳ジャージメイドの中にめちゃくちゃ可愛いスカートの女の子が混じってた事で、それを一目見ようとした人達が殺到したようだった。
猫耳ジャージメイドの中に、スカートを履いていたホールスタッフは一人しかいない。
………えっ、あのクソ忙しくなった時間って俺のせいだったの…?
因みに、俺は軽食とドリンクの関係で厨房とカウンターを往復していたので、めちゃくちゃ可愛い子、という噂が止むことは無かったらしい。
何が怖いって、夜空と途中で交代した美月や霧崎たちよりも、俺を目的に足を運んだ人の方が多かったって事が……。
…そいつ女の子じゃねえんだわ。
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