第143話 文化祭①
「あっ、こらこら、撮影はダメですよ!」
と言ってる俺は、手にスマホを構えている。
ここででかい奴使うのはちょっと邪魔になるからな…。
そこは公民館併設の体育館。
二年二組の演劇中、スマホを構えている人を見かけたので、小さく声をかけた。
「…お前の手に持ってるそれは何?」
「これは生徒会の仕事です。後日、写真販売もありますから、欲しければそちらでお願いします」
「……同級生に敬語使うなよ、なんかキモい」
「は…?あ、お前九条かよ。スマホのカメラ使うなよ。なんで一人で来てんの?」
髪が短くなっていたから、後ろ姿では分からなかった。どうやら俺の唯一と言える昔からの友達である九条結人が何故か一人で行動していた。
「晶が合流しないって言うから」
「へえ、なんで?」
「彼女と歩くってさ」
「……ふーん…。どんまい」
「彼女が誰なのか、聞かないのかよ」
「いや、聞いたって知らないだろうし」
「知り合いって可能性を考えないんだな」
「俺も知り合いなの?」
「知り合い」
「…」
晶と共通の知り合いで、アイツが好きになりそうな人は凛月以外に心当たりが無い。
「…まあ、午後になったらウチのクラスに来るだろうし、その時まで勝手に予想してるよ。それより九条、この後も一人で回るなら一緒に来る?」
「いや、仕事の邪魔はしないでおく」
「あ、そっか、仕事中だわ」
公民館に来ているという状況なので、九条は私服を着ているが、俺は制服で生徒会の腕章をつけている。
小声でやりとりをしたあと、九条が視線をステージへ戻した。
視線の先に居るのは神里結月、見に来るようにと先輩命令を受けているので、撮影ついでにここに来ていた。
先輩は午前中にもう一度ここで演劇をした後、午後にはまたもこの体育館でバンドを披露する。
俺は全部のクラスを一通り回った後、自分のクラスに戻って…。今日も忙しいなおい…誕生日だぞ。
「…こう見るとさ」
「ん?」
「ほんと似てるよな、夏芽さんと間宮って」
いつの間にかステージには結月と夏芽姉さんの二人が立っている。
…顔だけは、確かに似てる。
まあ、俺の体はあんなにフワフワしてない。
…なんて、口に出したら、九条にはなんて言われるんだろうな。
「…狙ってる男子相当多いだろうな…」
「……やっぱそうなのかな」
「そりゃそうだよ、どっかの天子様と大差ない」
九条がそう言うなら、間違いないんだろう。
大した話ではない。俺が妙に女の子にモテるのと、特に変わらない。
「…気に入らないって顔してるな」
「当然でしょ、こう見えて…」
「独占欲強いのは昔からでしょ、知ってる」
「…昔そんなでもなかったろ」
「いーや、いっつもちょっと後ろから『美月は俺の物だ』って顔してたね。それと一緒だ」
そんな風に見えていたのか。自分ではそんなつもりは無かったのだが。そこまで深く考えてなかった様な気もするから、周りからそう見えても別におかしくはないが。
「…凛月さんと、付き合う事になったの?」
「ん?いや、何で?」
「好きな人の様子が変わったら、嫌でもわかるんだよ」
「…あっそ」
こいつもか、と思ったが口に出すのは止めておいた。
やっとそういう話題が減ったと思ったら、文化祭でまで恋だのなんだのと聞かされるのはごめんだ。
「ま、別に良いけどね。そう言えば、榊先生と東先生が来るらしいから、ちょっと探してみたら」
「……探さなくても見つかるだろあの二人は…」
どうやら中学時代の恩師?が来ているようだ。どちらも世話にはなったが、あまり良い思い出のない先生だが…。
そろそろ時間だと思い、ため息を吐いて、俺はその場を離れた。
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