第142話 機嫌の良い双子
11月も下旬を迎える頃、明日には赤柴高校の文化祭当日となり、ウチのクラスは滞りなく準備を終わらせていたので、今日の放課後は特に何もやることは無い。
そんな訳で、俺は美月を誘って学校からほど近い場所にあるカフェに来ていた。
美月はあの日以来、妙に機嫌が良く、暇がある度にブレスレットを眺めては微かに笑みを浮かべている。
…笑顔は綺麗なんだけど、その仕草が若干怖いんだよな…。
学校では用がないと話しかけて来ないし、家では積極的に家事に取り組むようになったせいで元々していた分担の半分以上が美月に偏っていたりするので、こうして二人だけで息抜きをする機会も中々無い。
「……大分だな」
季節外れのアイスコーヒーを飲みながらそう聞くと、美月は小さく首を傾げた。
「なにが?」
「いや、髪。かなり長いままにしてるからさ。整えてるのは分かるけど…」
流石に長くないかな、なんて考えながら見ていると…。
美月はフッと自嘲する様に鼻を鳴らした。
「私のより、生徒会の先輩の髪を弄って遊んでる方が良いもんね」
「……ちょっと待てよ、なんで俺が理緒先輩の髪をセットしてるの知ってんだ」
あれは俺がどうこうと言うか、あの人がやらないのが悪いと言うか。
結月とか霧崎も綺麗な髪してるけど、理緒先輩も並ぶくらい綺麗なのにズボラだからなぁ…。
それはそうと、生徒会の人もほとんど知らないし、俺は可能な限りやらないようにしてるから知られてないけど…。
……女の子の髪触るのが好き…って、普通にキモくない?いくら可愛い女の子に好かれやすいからと言って、趣味にしてはヤバいでしょ。
理緒先輩のは、言い訳が効くからやってるのであってね、嫌がられたら即座にやめるつもりだ。
言い訳していいならそりゃ触るよ。
……そもそも女の子を見る時真っ先に髪質を見る時点で大分キモくない?
胸見るよりマシだろって思ってる自分もいるけど。
誰だよ、俺の性癖ぶっ壊した奴。神里結月って言うんだけど。
「…真は、私の髪には興味無いの?」
「ある」
「………あるんだ…」
無い訳がない。少しだけ癖っ毛気味の凛月と、柔らかくストレートな髪質の美月、どちらも普通に触りたいけど、普通に止めとくよ。
あまり人に知られたい趣味ではない。
美月相手なら別に良いのでは?と思わなくも無いが、美月は調子に乗るからダメだな。
凛月みたいにちょっと恥じらうけど、嫌がってはいない…くらいが一番相手しやすい。
かと言って、アイドルの髪を好き好んで触るのもどうかと思う。
なんて考えている間も、チーズケーキを食べている美月からの視線は若干痛い。
のだが、彼女の視線は不意に柔らかくなった。
「ん、そう言えば聞き忘れてたんだけど」
「…えっ、何を?」
「真の誕生日。文化祭以外に、何か考えてるの?」
そう言えば文化祭の当日が俺と夏芽姉さんにとっては誕生日でもある。
特に何かしたいとか、そういう話や考えがある訳ではない。
「……姉さんにプレゼント用意したくらいで、他は特に考えてないけど」
「ん…。なら振替休日に出掛けよ。凛月がしばらく休めるらしいから」
…凛月が?しばらく休める?
「………アイツ今めっちゃ忙しい筈だけど」
「ここしばらくずっと機嫌いいから」
「…無理しないように言っとくか」
体を壊すって事は無いだろうが、流石に疲れには敵わない。場合によっては俺も彼女の為に時間作ってあげたほうが良さそうだ。
「真冬には何かあったのかって、問い詰められてるみたい」
「凛月は分かりやすいし、真冬は察し良いからな。クロエとシオも、真冬のことは頼りにしてるって。ちゃんとリーダーしてる」
「面倒見良いから。多分、本人の口から聞きたいだけで、大体は察してると思う。もしくは、凛月が聞いて欲しそうにしてるか」
ありそうだな。
凛月と美月の両方とも機嫌いいから、真冬の様に二人の両方と仲の良い人だったら、分かりやすいだろう。
「美月も、偶にそのブレスレットをじーっと見てる時あるもんな」
「……ある?」
「意識してないのかよ、よく誰にも聞かれないな?」
「紫苑には初日で『それ真君に貰ったんだ』ってバレたけど」
「え、怖っ…。断言してくんのかよ」
どういう感知能力をしているんだろう。
「凛月も、六華にはすぐにバレたって言ってたし」
「…もしかして俺のチョイスって分かりやすいのか?いや、でも人にアクセサリーをプレゼントするとかまずやらないんだけど…」
百歩譲って、美月に突然アクセサリーを贈る様な奴が彼女の近くにはまず居ない、というので特に近しい存在の俺が疑われるのは分かる。
だが、凛月の方はプレゼントを贈られる機会の回数が美月とは桁違いに多いはずだ。
その中には凛月が機嫌を良くする物だって少なくないだろう。
「…なんでバレたんだ…?」
「凛月はお母さん以外の人に貰ったものを身に着けないから。だから、私はアクセサリーとか渡さない様にしてるし」
「……それを知ってる人なら一発で分かるのか」
そう言えば凛月と六華は親友ってくらいに仲良しだった。それくらいの話はするか。
「あ、なあ美月、アクセサリーの話してて今思い付いたんだけど」
「…?」
「リボンでも買いに行かないか?美月に似合いそうな奴、探しに行こう。明日一緒に回る時にでも、着けるのにさ」
「ん…。行く」
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