第十章
第141話 友と言える程じゃない
「…やべ、今になって緊張してきた」
文化祭の当日に使われる公民館、一年二組のクラスに割り当てられている部屋の飾りつけをしている時の事。
持って来た台では届かった所を、達也に肩車……と言うか、達也の肩に膝立ちしている状態で飾りつけしていると、下からそんな台詞が聞こえてきた。
「…まだ来週だけど?」
「つってもさ、来週とかすぐだって」
「良いんじゃない?今の内に緊張しときなさいよ。どうせ、当日は緊張よりも、楽しみになるわよ」
すぐ近くでスライド式の黒板に動物のイラストを描いている真冬。
彼女も緊張してる様子はないが、声は少し浮ついている気がする。
「ライブもそんな物よ」
声を抑えてそう続けた。
「あー…。そういや、クリスマスライブ発表されてたな、絶対に現地行くわ」
達也が思い出したように言って、俺も思わず呟いた。
「俺も現地行きたいな…」
「真君は来るでしょ」
「裏方でな?達也、ちょっと右寄って」
九条と晶と3人で久々に行きたかったんだけどな…。
「てか真、そっち方面は専門外とか言って無かったか?」
「こっちのスタッフが、また過労で一人倒れたのよ。あと、ルカのマネージャーも最近は体調良くないみたいね」
「うわぁ…。ハードだなぁ」
「ほぼ凛月のせいだけど」
「そうね」
肩から飛び降りると、達也は自分の肩を気にしている。
「…重くはないけど、骨が擦れて痛え。お前スネ硬すぎだろ」
「達也がヤワなだけじゃない?海人と違ってレギュラー落ちしてんのはそういうところだよ」
「おまっ……」
「なにしてんの?早く机運ぶの手伝ってやりなよ、でかいんだから力仕事してこいって」
「…人使いが荒いんだよ…」
シッシッと手を払って達也を他の場所に向かわせ、俺は一度部屋の中を確認。
自分のカバン漁ってスマホを取り出した。
黒板に向き合ってイラストを描いている真冬の写真を撮ったり、部屋の完成図を確認している桜井と蜜里さんを撮ったり。
一応これも生徒会の仕事なんだけど、若干サボり感が否めない。
どうやら他のクラスと比べても進捗が早いらしい事から、準備そのものは前日よりも前に終わりそうだし、
人選には問題しかないが。
「桜井、俺は
「ダイジョブよ、寧ろ手伝い欲しいかしら?」
「あー…。霧崎……はやめとくか。花笠、悪いけど良いか?」
「えっ、私?いいけど…」
霧崎と二人で歩くのは、俺の精神衛生上よろしくない。
同じ生徒会メンバーなら花笠の方が安心できる。
少し準備をして二人で部屋を出て、別クラスの準備を撮影しに行く事にした。
「あ、その…。くろさ……。いや、間宮、君…」
以前とは違って地味な印象を一転させた彼女だが、どうやら引っ込み思案な性格までは隠せてない。それが俺の前だから、なのかは他の生徒と話してるところをあまり知らないから何とも言えないが。
「…なんか……。凄く変わった、ね」
「…ん?」
「……小学生の頃は、周りに興味無い、って感じだったから」
「あぁ、そう言う話か…」
「……昔は、そうだったよね」
「俺は図書室から、外で遊び回ってる凛月とそれに振り回されてる美月を見てる方が似合う?」
そう言いながら俺は少し意外だな、と考えていた。花笠とは確かに、小学生の頃からの知り合いだ。ただ、彼女がそれを覚えているとは思って無かった。
知り合いとは言っても同じクラスになった事は無い。
同じ委員を六年続けたから、人のいない図書室で、ただ二人だけの時間を何度も過ごしただけ。
大した話をした記憶もない。
「…うん、その方が、君っぽい」
「俺もそう思う」
「……言い方は良くないけど…。人に冷たい方が、間宮君って感じする」
「………やっぱ、そういうイメージだったのか。そう聞くと、直してよかったとは思うけどな」
ふと、窓の外から見つけたのは一年四組の屋台群。元生徒会の烏間伊織と目が合ったので、軽く手を挙げて挨拶をしておく。
「…最初は…。無愛想な君が、格好良く見えてた」
「今は違う?」
「んん、そんな事ない。格好良いと思う」
…あぁ、なんか、ちょっと懐かしいな…こうやって花笠と軽口言い合うのも。
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