第139話 そういう家系②

 翌日、俺は間宮宅にそのまま泊まり、凛月は隣の鷹崎宅に帰った。


 そして現在、家族から事の経緯を説明されている。


 美月からは、黒崎宅であった家族会議について。

 紗月さんからは、美月と凛月の二人共を俺に貰ってほしいという思惑について。


 隣の家でそんな事を話している間に俺は湊さんと二人きりになっていた。


「…一応聞いとくけどな」

「はい、なんですか?」

「……交際期間、すっ飛ばして良かったのか?」

「良いでしょそんなの。例えば付き合ったとしても、何も変わらない訳ですからね。大して出掛けられる訳じゃない、凛月もそんな暇じゃない。会うにしてもここか、事務所か、あっちの家ですからね」

「…そうだけどな…。なら、美月の方はどうなんだ?」

「さあ?あの二人が望むようにするつもりです。美月と付き合うにしても、凛月と結婚するにしても、全部二人の方の都合に合わせますよ」 


 どちらかと言うと、俺の方に一切の都合が無い、と言うのが事実だし、どちらにせよ〝全ては文化祭の後〟になる。ここでの話はあくまでも仮だ。


 美月は多分、今のままで良いと言う気がするけれど。


 そんな話のついでに、二ノ宮誠との事情について、説明した。


 本当は話すつもりなんて全く無かった。

 だが百歩譲って、美月はほぼ自分から巻き込まれたにしても、俺は凛月までも危険に晒すつもりはない。美月は良いよ、多分あいつは自衛できるから。


「………お前マジかよ」

「マジです。父さん…二ノ宮とも、話はついてるし、証拠も整いつつあります」


 もう、中村先輩に確認とって、中村真緒もウチの文化祭に来るって確約してある。

 全部が全部上手くいくってことは無いだろうけれど、一応はそこで、全部片付けられる筈だ。


「…俺が二ノ宮に会えるよう、セッティングって出来るのか?」

「あっちを騙せば行けますけど、二ノ宮は会いたがってませんよ」

「ただの確認だよ、いざって時にできるんなら、それで良い。念の為、二ノ宮の連絡先寄越せ」


 ため息混じりに呟くので、俺も釣られてため息を吐いた。


「これで二ノ宮を警察に突き出したら、俺“全部すっぽかして”天音さんに泣きついて一生養ってもらうんで」

「やんねえよ今更そんな事は。あと、お前ならそれ出来んのが怖えよ…」


 ふと、天音さんの名前を出して思い出した。


「…そう言えば、湊さんは知ってたんですね。天音さんが、俺の異母姉だってこと」

「ん?あぁ、と言うか、ウチの家系を全部洗ってた時期があんだよ、五年くらいかけてな」


 ……へえ……。


「本来、動物の遺伝子は近親同士の交配をすると、遺伝子疾患やら病弱になったりするのが普通だ」

「劣性遺伝だから発現してない、不利な遺伝子が顕現しやすいから、でしたよね」

「そうだな。ウチの鷹崎家って血筋はどういう訳か、近親交配されてる奴の方が優秀だったり、長生きしてる奴の方が多い」

「…なんでですか?」

「知るかそんなの、家系辿ったら、大昔からそうだったって事は分かってんだよ。あと、お前も大元を辿ればウチの家系の人間だからな」

「…何となく察してましたけど、どこの派生です?」

「凛さんの実家の、中村って所が爺さんの父親の妹の家だ」


 遠いなぁ……そういや、鷹崎朱里の双子の娘が引き取られたのは“爺さんの伝手”がどうとか言ってたな。湊さんの祖父が、凛さんを引き取って間宮家に入れたのも、それが理由なのか。


「それと、俺と誠の父親…お前の祖父の、“二ノ宮”って家も、間宮の分家だから、大元は鷹崎だ」


 間宮は…。湊さんの祖父の妹の家…だったっけな…。


「頭痛くなってくるんですけど…。そもそも大昔って、いつから続いてる家なんですかその、鷹崎って」

「さあな。辿り切れなかったから何とも言えないけど、“鷹崎”って苗字だけなら、天皇よりちょっと短いくらいだ」

「バケモンみたいな家系じゃないですか…」

「天皇の家も、その昔は近親婚って当たり前だったから何とも言えねえけど」

「大昔が過ぎるでしょ……。近親婚とか近親相姦が多いのは、神話とか伝説だけで良いんですよ」

「ははっ、案外マジで神様の血を引いてたりしてな」

「………ちょっとシャレになんないですそれは」


 笑い事じゃない…。


「…この話聞いたら、天音さん辺りが『子種だけ頂戴』とか言いそう…」

「…………なんでだろうな、お前には本当に言いそうだ…あいつ結婚とか、しなさそうだしな。その時は精子提供くらいしてやれよ。美月にやるよりはマシだろ」

「湊さん、今自分がとんでもなく最低な事を言った自覚あります?」

「…ある。言ってから大分やべえなって思ったわ」


 湊さんも、色々あって疲れてるのかも知れない。


 俺と湊さんは、理由もなく、同時に深いため息吐いた。

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