第137話 二兎どころか一兎も追ってない
「……美月は?」
白龍先生の答えは、曖昧ながら理解できた。
残るは一番答えを知りたい相手であり、一番聞く必要がないと思っていた相手。
「…美月は、俺とどうなりたいんだ?」
「今のところは、何もするつもりはないよ」
「今じゃない。将来的に、だ」
どうしてか、美月は目を丸くした。彼女の事だから、てっきり即答すると思っていたのだが…。
「…将来…。考えたこと無い。ずっと一緒に居たいとは思ってる」
「結婚したいとか、そういう話?」
美月は小さく首を横に振った。
「肩書とか立場は何だっていい。結婚するにしても、子どもを産める体質じゃないし。真がそうしたいと思った時応えられない」
「「「………」」」
美月が言い放った突然の爆弾発言に、リビングの空気が凍りついた。
「…ちょっと待って美月、それいつ判明した?」
「ん?体質なら、去年の春。私は気にして無かったけど、生理が全く来ないとかって理由で、重くて苦労してる凛月のついでに」
「……因みに具体的な原因は…?」
「さあ?興味無かったし、聞き流してたからなんとも。子宮が欠如してるとか、そんな話だったかも」
平然とした様子でそう語る美月の様子には、一切悲愴感はない。どうやら本当にどうでも良いらしい。
行為に至った記憶も襲われた記憶ある以上、性行為は可能なんだろうけど。
ここまで平然と言われると、流石に反応に困る。
「一つ、理想というか妄想を言うと、凛月と真の子供を抱いてみたいな、とは考えた事ある」
ちょっと待てよ、中々の問題発言じゃないのか?
好きな人と妹との間に子供が産まれることを妄想してるって、重症だろ。
…っていうか、そうじゃん…。
凛月は、俺が美月と関係を持つ事を嫌がっていたが、その逆は覚えがない。
美月は、俺が凛月とどれだけ距離が近かろうと気にした素振りを見せた事は無かった。
……ん、てことは…。
「…お前もしかして──」
「そうしたがってるのは、私じゃなくて、お母さん。私は今の状態でも、実は結構満足してたりするから」
質問の途中で、美月は答えを挟んできた。
「──…そうかよ…」
「……あぁ…紗月は、そういう事考えるかもね」
そうしたがってるのは、ね。
話の内容を察して、夏芽姉さんまで顔をしかめた。
これまた、湊さんが嫌がりそうな話だが…。
湊さんと違って、紗月さんは俺の事を実の子供三人と同じか、それ以上に深い愛を持って接してくれるからな…。それくらい、普通に考えそうだ。
「…そうか…。あの人、双子両方とも俺に押し付けるつもりなのか…」
「人聞きが悪い」
「親公認の浮気と、将来的には不倫よね」
「そっちの方が人聞き悪いだろ」
…ただ、俺の悩みが色々解決するのも事実だ。
けど……。そうか、紗月さんは俺に言い訳を用意してくれた訳だ。
割とふわふわして何も考えてない様に見えない事もない紗月さんだが、ああ見えて色々考えてるのかも知れない。勿論、あわよくば高嶺の花みたいな娘を二人共連れ去ってくれれば儲けもの、という気持ちはあるんだろうけれど。
「………けど…。そっか…。案外、それが一番良いのかもな」
「え…真?」
白龍先生が若干苦笑いを浮かべたが、俺は気にせずに美月に目を向けた。
「美月、今度湊さんと紗月さんに、話に行こう」
「……いいの?」
「良いも悪いも、あっちの返答次第だけどな。俺だって、こういう事をするつもりなんて無かった。でも、まあ……。なんだ、“お前ら”の為になるんなら、そうするよ」
…俺が恋愛について難しく考え過ぎている、と言っていたのは真冬だったかな。
彼女の言うとおりかも知れない。
流石に彼女も、美月や紗月さんほど柔軟に考えている訳では無いだろうけど。
「…取り敢えず、さ。可能な限り、三人とも俺を性的に誘惑するのは止めてもらえない?基本的に俺から何かするって、まず無い訳だから」
「…私こっち来てからは何もしてない」
「美月お前何気に、毎朝人の寝顔確認してるらしいな?それ聞いた時ちょっと気が気じゃなかったから、取り敢えず全員、問答無用で俺の部屋は出入り禁止。これは後でクロエにも言っておいて、念の為」
パソコン意外には大したものは置いてないし、そのパソコンも作業用でやましい事は何一つ無いから、今までは気にしてこなかったが、いい加減に何か対策を取った方が良いだろう。
それに……来週の夜にでも、凛月と話をしなきゃ行けないだろうし。
…言っちゃえば、告白の返事だもんな、一ヶ月も待たせてる。
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