第134話 生徒会バンド

 美月がクラスに馴染むのには半月と掛からなかった。元々知り合いというか、真冬の様に仲の良い友人が居たのはもちろんの事顔見知りも少なくない。

 それにやはり、大翔の近くの席に居ると、自然に他の女子との会話が増えるのでクラスメイトと関わる機会が多い様だ。


 一応、現在の大翔はフリーではなく、夜空とれっきとした恋人同士という立場にはなっている様だが、そんなのはあまり関係なく…。

 彼は相変わらず、女子に囲まれながらそれを苦にせず夜空に纏わり付いている。


 今こうやって見ると、このクラスは中々に歪だ。


 クラスの大抵の女子は大翔に、少数が俺に好意を寄せ、あとは彼氏持ちがチラホラ。

 そして殆どの男子が女子を諦めて、俺に対して劣情を抱き始めている。


 本当に歪だ…。


 季節は10月も下旬、文化祭までの期間が一ヶ月を切ろうとしていた頃。

 必要な衣装の準備が整い、当日に出すメニューも揃いつつあり、文化祭の用意は順調と言えるだろう。


 一方で俺は生徒会の方でも、やる事があった。


 普段の仕事はもちろんの事、生徒会メンバーは毎年恒例のバンドをやるのだとか。


 と言うことで、今日は生徒会メンバーで音楽室に集まっていた。


 ……これ俺は混ざらない方が見栄え良いな…。


 ボーカルは霧崎、ギターを花笠、ベースを中村先輩、キーボードを結月、ドラムが桜井。

 どうやら、全員がそれぞれの楽器経験者らしい。


 正直、桜井のドラムが格好良すぎてビビったし、花笠がギター弾けるの意外すぎる。

 結月は去年ボーカルだったらしいが、キーボードも出来るそうだ。中村先輩は去年に引き続きベースギターとのこと。


 俺は音合わせをしている5人を横目に、暇していると言う理由で見に来ていた理緒先輩と音楽室の端で話をしていた。


「…普段って、どんな楽器構成なんですか?」

「去年は椿二人でギターやってたな。一昨年は椿が二人揃ってベース&ボーカルで、先輩もギターが二人、あとドラムとキーボードって構成だった」

「因みに理緒先輩は何を?」

「キーボードだ。ここのギターは私にはサイズが合わない」

「弾けない訳じゃないんですね」

「ならお前はどうなんだよ?」

「さあ?どうなんでしょうね。多分無理ですよ、やった事無いんで」

「歌は?カラオケとか行くだろ?」

「最近はまったく。一緒に行くのがクラリスのメンバーかそのファンなんで、聞き専です」


 言ってることがヤバい自覚はある。

 美少女達が制服で楽器弾いてるのってなんか良いね。


「まあ、今年は五人で良いんじゃないですかね。その方が圧倒的に見栄えが良いでしょ」

「お前が女子制服着れば見栄えは変わんねえよ」

「嫌ですよ、なんで生徒会の出し物とクラスの出し物両方で女装しなきゃ行けないんですか」

「お前マジかそれ」


 あ、やっべ、思わず口滑らせた。


「そんな面白い事になってんのか」

「俺は面白くないですけどね」


『〜〜♪』


 取り敢えず一曲、何を歌うのか決まった様なので、俺と理緒先輩は教室内のカーテンを全て閉めて回った。


 イントロ部分からして「俺には全く分からない曲だな…」と思って、すぐに考え直す。


 そもそも俺は普段から全く、娯楽の類に触れる事無く生活しているのだから知らなくて当然だ。

 高校に入ってからは特にそうだ。


 最近は外食すらしてないし、インターネットは最早仕事場の一つ。

 学校では放課後遅くまで文化祭の準備や生徒会の仕事、夜は分担しながらだが家事をして、一人の時間は資格の勉強。

 休日はグランヘルツの事務所へ出向いている。


 ………そりゃ、睡眠時間も取れないし、疲れ溜まって食欲を無くしたりもするよな…。

 自分が料理をする時に、油物を作らなくなったくらいだ。男子高校生の食生活かこれが…。煮卵とかおでんが美味しい季節になってくるね。


 一曲終えて、取り敢えず拍手をしておく。けれど、やはり俺には音楽関係は良く分からない。


「…思った以上に完成度が高いな」

「そうなんですね」


 クラリスやシオンに関してだって、俺はあくまでバラエティ、その中でもSNS方面でのサポートをしているのであって、歌やダンスなんかの音楽関係はド素人だ。


「…五人…ってなると、お前何すんだよ?」

「撮影ですかね。後日高校のホームページにでも載せる用に。文化祭の中って基本は撮影禁止ですから、いろんな学年の出し物の写真でも撮って、学校のPRも兼ねてやっとけば良いんじゃないですか?」

「お前その顔と声とスペックで、いっつも裏方やってんな…。林間学校の時と言い」

「割と性に合ってるんで」


 そう言いながら、持ってきた鞄から一眼レフカメラを取り出す。


「…そのカメラ、海行ったときのやつか」

「はい。一応、理事長と教頭から許可貰って、各学年の準備風景とかも撮ってるんですよ。生徒会の仕事って扱いで。本番も、クラスの出し物の休憩時間には、撮影やってるつもりです」

「…ちょっとは休めよ?」

「わかってますよ」


 わざわざそ撮影役なんて物を買って出たのにはもちろん理由がある。

 これなら文化祭の当日に、どれだけ単独行動をしていても、言い訳が聞くからだ。仕事はちゃんと熟すけど。


「…真、お前どうした?」

「どうって、何がですが?」

「今日のお前、流石に無表情が過ぎるぞ」


 …無表情に度が過ぎるってあるのか?


「なんかあったのか?」

「いえ、寧ろ特に何もないから、こんな顔してるんですよ」

「…お前、笑ってる顔は本当に美少女だけど、無表情だと人に見せられないくらいセクシーな美形男子だな」

「なに言ってるんですか…?」

「いや、悪い。柄に無い事言ったな」

「本当にイメージに無い事口走ってましたね」


 本当に一体何があったんだろうか。

 普通にしてるだけの顔を見られて、それで照れられても本当に困るんだけど。


 ……そう言えば、髪伸びてきたな…。


 …まあ、別に切らなくても良いか。昔はもっと長かったし。

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