第133話 天使と悪魔が舞い降りた
「秋山」
「はいはい、なにかな?」
「…あれって元々やる予定だったの?」
「そだよ、だから衣装あるんだし」
「あれってさ、天使と悪魔……だよな?アニマル要素はどこ?」
「あー間宮は、翼猫って知ってる?」
「…一応、ぼんやりとは」
「あれって、「天使猫」とか「コウモリ猫」って言われる事もあるんだよ」
「……それのコスプレってこと?」
「そう。屁理屈すぎるよね、要は衣装班が着せたかっただけの奴」
「……なるほどね…。因みに秋山は衣装決まったの?」
「間宮のバニーバージョンのやつ」
「あー……」
「ま、半袖短パンだけど」
「……なんで俺がスカートなのに女子のお前が短パンなんだよ…」
「衣装班の趣味かなぁ」
大きなため息を吐いて「質が悪いんだよ」と独言していると、不意に歓声が教室内に広がった。
どうやら、今話していた「天使猫」の衣装を着た美月と「コウモリ猫」の衣装を着た霧崎の二人が教室に戻ってきた様だ。
「…あーあ、…祐樹まではしゃいじゃって…。私というものが居ながら」
「大丈夫、大翔まで一緒になってるから」
「栗山さんも苦労するなぁ…。一途なのか軽薄なのか分かんない彼氏持っちゃって。仕方ないんだけどね」
「…あ、やっと付き合ったの?」
「栗山さんが渋々って感じで折れたんだって」
「流石にそうか。てことは、桜井とか蜜里さんあたりも、いい加減に大翔から離れるか?」
「朱音ちゃんはどうかなぁ…。桜井さんはともかくね」
蜜里さんはなぁ…。難しいよな。
その蜜里さんに関わるのが嫌で、夜空は大翔から距離取ってた節もあるし…。
桜井が写真を撮ろうとしてる男子を蹴飛ばしてるのを、教室の端から秋山と眺める。
「…そういや今更だけど、秋山とちゃんと話すのって、何気に久々だよな」
「あたしと?そりゃ、元々あんま関わりないし」
「そうだけど、俺は祐樹とはよく話すからさ」
「あーね。てか、祐樹も節操無いんだよねぇ…」
「このクラスにいる間は、一人に集中ってのも無理あるだろ」
「栗山さんの告白断った女誑しは説得力が違うねぇ」
「断ってねえよ、結局最後まで『付き合ってほしい』なんて言われなかったからな」
「“言わせなかった”の間違いじゃなくて?」
「かもな。あいつと大翔の間に割り込むほど、俺は無神経じゃないんだよ」
「もしかして他の子が無神経だって言ってる?」
「もしかしなくても、そう言ってる」
つーか、夜空が教室内で俺にアプローチしまくったのも、やっと半年近く前になるのか。
「…一年って長いな…」
「え、そう?結構あっと言う間じゃない?」
「最近は一日が二十四時間より遥かに長く感じるから分かんねぇ」
主に睡眠時間が短くなってるのが原因な気はしてる。
ふと、突然俺達の目の前に、霧崎と美月が移動して来た。
黒や紫を基本としたコウモリの羽にへそ出し衣装はサイズ感のせいで下乳が見えたり隠れたりしている。そんな小悪魔衣装に猫耳尻尾を付け足した衣装の霧崎が、その場でくるりと回った。
彼女の後ろから聞こえる、発狂にも似た歓声を放置して、俺は隣で苦笑いの秋山と話を続ける。
「…ねえ、どう真く…」
「俺秋山のうさ耳ジャージメイド見てないんだけど、衣装今持ってんの?」
「………無表情で無視された…」
「うっわ、すっごいガン無視するじゃん」
「…だって、一々反応すんのもな。今更じゃね?」
「今更でも、女の子には褒めてあげるもんでしょ」
「はいはい、可愛い可愛い。まるで小悪魔みたいだな」
「…いつにもまして辛辣…」
と言ってる割にはさして落ち込んでない霧崎から今度は美月に視線を移す。
こちらは天使の羽と純白のワンピースに猫耳と尻尾の衣装。
彼女の銀髪も相まって、最早本物のソレ。
「…お前等それで配膳とかすんの…?」
「接客と客引きだけ。配膳はジャージメイドの人達だって」
「……へえ…」
まあそうなっても仕方ないか。動きやすい衣装動きにくい衣装ってあるだろうし。
「……どう?似合う?」
そう聞かれたので、俺は素直に答えた。
「かなり良いんじゃないか?でも本番のときは、髪ちゃんと纏めろよ」
「ん、分かった」
「霧崎さんとの対応に差がありすぎじゃない?表情全く変わってないけど…」
「……霧崎は褒めると調子に乗るからな」
「…つまり、可愛いとは思ってるってこと」
美月がそう補足すると、霧崎は機嫌を良くして他のクラスメイトにも愛想を振り撒きに行った。
「…美月は着替えてきたら?サイズは大丈夫なんだろ?」
「ん、着替えてくる。あと、胸元キツイから調整してもらうつもり」
そう言い残して、猫耳カチューシャを外しながら衣装班と共に教室を出ていった。
「……なあ秋山、あれって元々誰が着る予定だった奴?」
「元は朱音ちゃんのやつ。その朱音ちゃんは、栗山さんと一緒に燕尾ジャケットのバニースーツ着るから」
「…うわ、なにそれめっちゃ見たいんだけど…。てか、そうか…。美月って、蜜里さんより胸でかいのか…」
「あ、間宮が無表情で男子高校生みたいな事言ってる」
「事実、男子高校生なんだけどな?あと、無表情でも無いだろ」
「いや、最近の間宮は目死んでるって」
「そうかな…」
………それにしても、秋山ってこんなに話しやすかったのか。
誰よりも会話を続けやすいんだけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます