第九章

第131話 転校生

「な、なぁ…真…。どういう事なんだ、これ?」

「知るか、俺に聞くな」

「他の誰に聞けってんだ…!」


 海人の小さな怒声を無視して、机に頬杖を付き俺は深くため息を吐いた。


 このクラスに転校生がやって来た。

 誰かと言うと、鷹崎美月。俺の幼馴染みだ。


 俺と美月の関係を知ってるのは、彼女の誕生日の際に一緒に海に行ったメンバーだけ。

 このクラスで言うと、達也と海人、大翔と夜空、そして桜井の5人。


 だが、転校してくる具体的な理由なんて物は知らない。そりゃそうだ。関係者の俺だって、最早よく分かってないんだから。


 美月は、夏休み中に途中退学したクラスメイトの穴を埋める形でこのクラスに入り、まるで恒例行事であるかの様に、彼女の転校と同時に、席替えが発生した。


「…つーかさ、こんな時ですらアイツ主人公なのかよ…」


 海人の呟きに、俺も苦笑を返した。


 窓際、一番うしろの席という何かに既視感のある俺の席には、隣に海人が、前には桜井が居る。


 一方で対角にあたる廊下側前方の席に目を向けると、大翔を中心として隣に夜空と蜜里さん、後ろに美月、その隣には真冬。前に霧崎、そのまた隣には花笠が居た。


「…最早、そういう呪いね、アレは」

「珍しく桜井は抜け出せたのな」

「そうね、いつもなら東蓮寺君あたりが居る席に逝ってたかも」


 東蓮寺君…達也は、真冬の隣に移動した。

 そして、俺の列の一番前では、こっそりと祐樹が彼女である秋山と隣になっていたり…。


 なので、俺は今日も海人と仲良く駄弁るだけ…。


 ……とも行かないんだよな。


 …だってさ、せっかく色々吹っ切れたと思ってたら、考え事が増えたんだけど。


 いや、確かにね?

 俺と父さんの事情を知ってる美月がこっちの高校側の生徒として文化祭に参加してくれるのは、色々都合は良いよ、それは認めるよ。


 でもさぁ…!?あんなに色々とお見通しだったのはちょっとどうなのかなぁって、思う訳よ。


 手先と考えは器用なくせに、人間としても、父親としても不器用が過ぎる。なのに手回しは早えんだよ。


 ……まあ、でも……。

 …また、美月と一緒に登下校できるのは、昔を思い出すみたいで、ちょっとだけ嬉しいけどさ…。


 鷹崎家の全容に付いても、頭に入っている。

 父さんにはまだ伝えてないけど、真犯人として中村真緒に明確な動機がある事も分かった。


 やれる事が増えたのは確かだ。


 それはそうと、美月の行動が読めないのだけが、本当キツイんだけど。

 彼女の考え方からして、俺の邪魔になるような行動はしない筈だし…。せめて事が終わるまでは恋心は抑えておいて欲しい。

 絶対に無理だろうけど、抑えておいてくれ。


「…つーか……。改めて見ると、とんでもねぇ美少女だよな…月宮ルカのお姉さんってだけあるわ…」

「わかる。なんかオーラが違うよね」

「…へぇ…」


 そんな、皆の話題の渦中に居る美月はと言うと、クラスメイト達が大翔すら押しのけて、彼女の机の周りに人集りを作っている。

 気の所為じゃなければ、別クラスからも大量に生徒が来ている。

 

 どんまい主人公。


「へぇじゃねえよ。なんだその気の抜けた対応は」

「……いや、海人は結構な回数会ってるだろ」

「せいぜい三回目ぐらいだわ」


 それなら十分ではないだろうか。


「ほら、よく言うだろ。美人は三日で飽きるって。三回見たら美少女なんて慣れるんだし、そもそもお前このクラスにいる時点で美少女なんざ見慣れてんだろ」


 夜空とか霧崎とか見てたら、もうあんま変わんねえよ。


「そんな事を言えんのはお前と大翔くらいなんだよ……」

「いやいや、冷静に考えてみろ。いくら教科が違うからと言って、それが百点の答案用紙だったら、どの教科だとしても、見る目なんて大して変わんねえだろ。あと正直、下から見上げる時って、百点と九十点って大した差はないよな?」

「例えが微妙に分かりにくいけど、まあ分かりやすいわね」

「お前も百点側だし、下から見上げる機会ねえだろうが…」

「正直さ、美月とか夜空よりも、真面目にお洒落した俺の方が可愛いだろ」

「無表情で何言ってんだお前…?」


 ふと、思い至った。


「……あれ?…今ツッコミ待ちで適当にボケたけどさ…。もしかして、美月にアニマルコスをさせられる…?」


 俺がそんな事を口走った時、教室内の時間が止まった気がした。

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