第128話 嫉妬と恥辱

 俺は早朝に目が覚めた。あまり、長い時間の睡眠は取れなかったけど、ここ最近はいつもこんな調子だ。

 強いて言うなら、アルコールのせいか少し頭痛がするけれど。


 早い時間ではあるが、危うすぎる夜の出来事を思い出しては二度寝を出来そうも無かったので、いつも通りの朝支度をした。


 後は高校で出されてる課題を済ませたり、クラリスの動画でやらなきゃ行けない事を終わらせたり、後は個人的に、天音さんの元で働く事を見据えて、色々な資格についての勉強をしたり。


 そんな事をしていると、あっと言う間に時間は過ぎていき…。




 ……あ、もう昼か……。


 と言うことで、昼食の用意をしていると、白龍先生が降りてきた。

 俺の顔を見つけると、とても気不味そうな表情をしながら、か細い声を出した。


「…あっ……その、ごめん…色々」


 そんな様子の白龍先生に思わず苦笑しながら近寄って、優しく首に腕を回した。


「どっ……どうしたの…?」

「ただのハグですよ?」

「…君、そんな事するタイプだったかな?」

「一緒に暮らす前のクロエ相手だったら、良くしてましたよ。ほら、先生もぎゅーってして下さい」


 昨夜も、そして以前もこうして、白龍先生に抱き締められた事がある。いつもは、先生からしてくれたんだけど…。


 やっぱりいい匂いがする。こうしていると、自然と落ち着く。妙に安心感がある。


「…謝んなくて良いです、むしろ感謝してます。最近、色々悩んでたんですけど、先生のお陰でちょっと吹っ切れました」


…嘘だ。

俺は、こんな事言う人間じゃなかった。


「……私のやったこと、大分酷いと思うけど」

「そんなの、受け取り手次第ですよ。されて嫌の事は無かったし、悩みはちょっと晴れたし、の可愛い所も見れたし…ね」


 そう言ってからかうと、白龍先生はかぁっと頬を赤らめた。


「…忘れてよ…」

「え、忘れちゃっていいんですか?」

「………だめ…」


 耳元で小さく呟かれた。

 この愛には、歪さもあるけど、素直で純粋でもある。

 白龍先生の蕩けたような瞳と見つめられて、惹き付けられる様に近付こうとして来た、その時。


 ガチャ

 と、突然、背後のドアが開いた音がした。


「…何してんのお前ら…」


 聞き慣れた、でも最近は聞いてなかった声がした。

 振り返ると、夏芽姉さんを送って来たのか、湊さんと紗月さん…そして何故か凛月と美月まで部屋に入って、俺と白龍先生が抱き合う姿を眺めていた。


 …渚とクロエが居ないけど……。


「どうも、湊さん。見ての通り、昼食の用意ですけど」

「…昼食の用意で抱き合う必要があんのか?」

「……湊さんも、ご飯の用意してる時に突然紗月さんと抱き合ったりとか、してましたよね」

「まさか言い返されるとは思ってなかったな…。で、いつまで抱き合ってんだ?」

「えー…湊さんもやります?」

「意味が分かんねえよ」

「ふふっ、仲良しでいいじゃないですか」


 紗月さんが、この状況をそんな台詞で済ませると……何故か俺の背中に抱き着いて、ハグに参加して来た。


「…紗月までなにしてんだよ…」

「だって、羨ましいじゃないですか。真は、自分からなんて私達に会いに来てくれないのに、白龍とは毎日こんな事してるんですよね?」

「……毎日はしてない…」

「てことは、時々はしてるんじゃないですか。真はもう少し、私のことも構って下さい」

「…いや、紗月さんには湊さん居るじゃないですか」

「湊くんは最近、私よりも拓真さんにお熱なので」


 べっ、といたずらっぽく舌を出して笑みを浮かべる。

 白龍先生といい、この人と言い、年齢を感じさせない容姿には、そんな仕草がよく似合う。


 湊さんは呆れ顔でため息を吐き、近くの椅子に座った。


 紗月さんの陰になっていたから見えなかったが、いつの間にか夏芽姉さんまで抱き着いてきた。


「え…姉さん?」

「…なによ?」

「いや……」


 前と後ろに比べてちょっと硬い…とか、流石に口に出しては言えないな。相手が悪い。

 というか、前がフワフワし過ぎてるんだよ。なんでこれでウエストあんなに細いんだろうって本当に疑問になるくらい。


「うおっ!ちょ…お前等、そこに居られたら俺、出られなくなるんだけど…」


 だって、とうとう美月と凛月も参戦して来たから。真ん中に居た俺が完全に動けなくなった。

 そしてちょっと、流石にこの状況は不味い。


「あれ…今気づいたけど、真、ちょっと身長伸びた?」


 不意に、凛月が俺の頭にポンポンと手を伸ばした。

 確かに目線の高さが見上げるような形だった夏芽姉さんを、いつの間にか少し見下ろす様な形になっている。


 いつ頃こうなってたんだろう…と考えながら、その場から抜け出す算段を着けていると…。


「んぁぅっ♡!?」


 突然嬌声が口から漏れ出た。

 耳の裏側を強く刺激されたからだ。


「「「…!!?」」」


 膝や腰から力が抜けて、ストンっと抱きついてくる皆の腕をすり抜けて尻餅をついた。


 …くそっ…ふざけんなよ急に……犯人は美月だな……?


 微笑む美月と、苦笑いをする姉さんと白龍先生。

 愕然とした様子で驚いている紗月さんと湊さん、そして凛月も…。


 ……なんで真っ昼間から、こんな辱めを受けなきゃ行けないんだ…。


 …やば、今立ったら…。勃ってるのバレる…。

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