第118話 クラスの出し物

 その日の放課後、やはりと言うか文化祭のクラスでの出し物を決めることになった。


「…あぁ、やっぱり出し物決めんのか」

「ウチは文化祭デカイからなぁ…」


 因みに生徒会の規模は小さいから、できる事も少ない。いくら優秀な人が揃っているとは言えそこには限度があるので、生徒会はあくまで文化祭実行委員の補佐をするだけ。


 基本的にはクラスの方に集中していいとのこと。

 勿論、それ以外の仕事はそこそこあるようだが。


 このクラスは俺と霧崎と花笠の三人が生徒会の新メンバーとして参入しているのに加えて、元々桜井も生徒会で、生徒会で大きな仕事があったらそれはそれで大変だった事だろう。


 クラス委員の蜜里さんと桜井がとりあえず話し合いの進行をしており、俺はその後で黒板に向き合っていた。


「ええと、それでは一旦纏めると、演劇、コンセプトカフェ、お化け屋敷の三つで多数決を取る、という形で良いよね?」


 桜井の確認に対して各々適当に頷いたり返事をしたりする中で、大翔がそっと手を挙げた。


「一応聞くんだけど、コンセプトカフェって何をやるんだ?」

「それは…。それに決まったら話し合うって事で良いんじゃ…」

「でも、何やるか分からない以上、票を入れようが無いだろ?」


 まあ、正論と言えば正論か。


 すると、蜜里さんが一歩下がって声を抑えて俺の方に聞いてきた。


「…そもそも私、コンセプトカフェってよく分からないんですが…。例えばなんですか?」

「あー…ほら、店員さんがコスプレしてる奴とか」

「……いわゆるメイドカフェ的な…?」

「それも、一応コンセプトカフェの一種だよ。あとは猫カフェとかもそう。他にもアニメとか映画とかとのコラボカフェとか…かな」

「…ハードル高くないですか、それ?」

「正直、めっちゃ高い。けど、聞いた話では去年の三年生は『男装ガールズBAR風カフェ』ってのをやったらしいから、自由度はめちゃくちゃ高いよ」

「おーい、そっちでコソコソ話しても意味無いだろ」


 達也にそう言われて、俺達はみんなに視線を戻した。


「…分かった。えと、じゃあ…一旦、“コンセプトカフェ”って言い方止めて…。これと似た意見出してくれた人達は、具体的に何をコンセプトとしてやりたいのかこっちに書いて挙げて貰える?」


 と桜井が言うと、意見を出してくれた数人が黒板にやりたいコンセプトを羅列してくれた。


 王道と言えば王道のメイドカフェと執事カフェを筆頭に、挙げられたのはナース、アイドル、ファンタジー等など。

 極めつけは“女装猫耳ゴスロリメイド”とかいう、俺には最早どこを目指してるのか分からないコンセプト。とりあえず、これ出したのが男なのか女なのかを知りたい。


「…ごめん、このよく分からない奴書いたの誰?」


 俺が思わず聞いてしまうと、真っ直ぐに堂々と手を挙げた奴が居た。祐樹だった。


「お前かよ…」

「もっと具体的に言うと、それをお前に着てほしい」


 とても真剣な表情で、彼は俺に向かって言った。

 俺が冷ややかな視線を送る中、何故か教室内ではコソコソと「それ良くね?」という主に男どもの声が……いや、女子も結構乗り気だな。


 いやいや、真面目に考えろよ…。

 もしそうなったとして、それ着るのは何も俺だけじゃないんだからな?

 俺が着ない可能性だって大いにあるからな?

 って口に出したら反発されんのかな…。


「はいちょっと静かにしてください。そもそも、過激だったり露出が多かったりするのは良くないんですよ、小さな子から年配の方まで幅広く来場するんですから、それ相応の節度を持ったコンセプトにしないと。それに、カフェにすると決まった訳でも無いんですから、ちゃんと話し合いをして決めていきましょう」


 おぉ、良かった。蜜里さんがめちゃくちゃマトモだ。


 それからみんな、とても真剣な様子で一時間以上に渡って話し合いを続けた。


 その結果…。




「……アニマル喫茶…?ってことは、動物的なコスプレ…ってこと?」


 ほぼ聞き流しながら黒板と向き合っていただけの俺は、内心で呆れながら決まった出し物を黒崎先生に報告していた。


「………はい…。生徒会の方から持って来た今までの前例なんかからも情報を取り入れたりして話し合った結果…こうなりました…。十中八九通るだろうってことで」

「……そ、そうなんだ…。因みにこれ、君も着るの?」

「そんなわけないでしょ。俺これでも人より料理できるんで、そっちに回りますよ」


 多分ね…?

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